三章.二十三話
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 ――えーと。

 俺は一体何をすれば……。

「早月。ちょっといい?」

「ん……な!? んん……?」

 あまりにの出来事に俺は何も考えられなくなった。

 紀美は俺に突然目潰しを仕掛けてきた。

 そして、反射的に目を閉じた瞬間キスをもって口を封してきた。

「いい? 難しく考え無いで。早月がやらなきゃいけないことは誰にでも出来る事なの」

「誰にでも!?」

 これ超難題な気がする。

 だってこれが出来たら修行何て必要ないじゃないか。

「必要無いよ。ただ今はこのお店の機能を止めない事を考えて」

 機能を止めない。

 今俺がやらなければいけないこと。

 ケーキは今のところ沢山ある。

 なら今はこれを売るだけでいい。

 ふと店を見てみると店の外まで人が並んでいる。

 これか!

「紀美! 接客を頼む」

「そうそう。その調子で次を考えて」

 次は……。

 もっと人手が必要だ。

「えーと。マザコンさん? 紀美のフォローにまわって下さい」

「マザコンって言うな!」

「手伝ってくれたら女の子にモテる秘訣を教えたげる」

「何でも言ってくれ。出来る事は何でもやるぜ」

 ナイス紀美!

 これで暫くは時間が作れる。

 一番厄介なのはケーキを作ることだ。

 こればかりは見よう見まねでどうにかなるものじゃない。

 どうする?

 とりあえず食べてみるか。

 手近にあったケーキを食べてみた。

 途端に俺は絶望に暮れた。

 無理だ。

 レベルが違いすぎる。

 せめてレシピがあれば……。

 そうか!

 レシピだ。

 何処かに必ずあるはずだ。

 考えろ……。

 もし、自分が世界に通じるケーキ屋になったらレシピはどうする?

 レシピは命だ。

 そう簡単に見つかるところにあるわけがない。

 いや違う。

 いつ新しいアイディアが思いついても良いように……。

「ちょっと失礼します」

 そう言って俺はお母さんのポケットを探ろうとした。

 が、ぴしっと手を払われた。

 レディーに向かってあなた何をしているのよ。

 そんな目で睨まれた。

「ごめんなさい……」

 お母さんは何も言わずにレシピを手渡してくれた。

「有り難うございます!」

 やっぱりここにあった。

 しかし、一切口を出さないとは言ったけど。

 本当に一言も喋らないとは……。

 それにすんなりとレシピを渡してくれるとは思わなかった。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 世界に通じるケーキを作らなくては!


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2007/07/09(月)