一話
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 ――学校と呼ばれる教育機関。

 そして、そこで放課後と呼ばれる時間帯。

 学校の目の前にある公園に数人の学生の姿が伺える。

「お前、いつ見てもキモいよな」

「ど、どの辺がキモいのかな……。教えてくれれば出来る限り直すように努力するよ」

「まず、それがキモい」

 キモいと言われた少年を中心に数人の男がそれを取り囲んでいる。

 この状況はいわゆるリンチというものか?

 まあ、別に殴る蹴るされているわけでは無い様だが。

「お前のそのキモさは一生物だから努力したってなおらねえよ」

「そんな……」

「それよりお前、カネは持ってきたのかよ」

 カネ。

 成る程。陳腐なカツアゲと呼ばれるものか。

「そんな、十二万なんて大金持ってるわけないじゃないか」

「……っ! お前散々自分の親は金持ちだって触れ回ってたじゃねーかよ!」

「そ、それとこれとはわけが違うよ。そ、そもそも、こんな人数で取り囲む必要なんて無いじゃないか」

 白熱してきたな。

 そろそろ、殴り合いでの解決が始まるのだろうか。

 その末、勝った方が戦利品として財布の中身を頂戴する。

 いささか、一対四ではキモい学生の方が不利と見受けられる。

「はあぁぁ!? お・ま・え・が! 俺たちのゲーム機ぶっこわしたカネを弁償するっていったんだろ!」

「学校にそんな物持ってくる方が悪いんだよ」

 おや、どうやら違うらしい。

 キモい学生の過失に対し賠償を求めているらしい。

 確かに、本来学ぶべき所にその様な物を持って行った方が悪いが、過失を認め賠償に応じると過去に言った様だからな。

 男として。

 いや、武士として賠償に応じるべきであろう。

「あああ!? お前さ。何で自分がいぢめられているか、マジでわかってねーんじゃねえの!?」

「それは、僕がデブでオタクでメガネを掛けているから……。でしょ? デブオタヒキ・キモメガネってよく言われるから解ってる」

 でぶおたひききもめがね?

 キモい学生は、何やら複雑な二つ名を頂いているらしい。

 折角なので、以下キモメガネと呼ばせてもらう。

「ちげーよ! ただのデブオタヒキ・キモメガネなら関わりたく無いって思うぐらいだ」

「じゃあ、何で……」

「いちいち、お前に説明してやるほど俺たちはお前が好きじゃない。むしろ、だいきらいだ」

「そんな! 教えてくれたっていいじゃないか! ほ、ほら。ちゃんとお金も払うから」

 持っているではないか。

 何故、資金調達出来たのにも関わらずあの様な戯言を。

 きもめがねの考えている事は理解できぬ。

 そして、我が輩が何故ここに赴くよう勅命頂いたのかもだ。

「おいおいおいおい。いい加減にしろよ? 俺たちをバカにしているのか?」

 ボスとおぼしき学生がきもめがねの首を右手で掴む。

 そして……。

 ナイフで左足の太ももを突き刺した。

 きもめがねがボスを刺した。

「……お前」

 ボスの声は驚きと痛みでかすれ、取り巻き達は不足の事態に動揺している。

「ぼ、僕は悪くないからな」

 そう言って、好機とばかりに、きもめがねはカネをばらまき一目散に逃げていったではないか。

 我が輩にどうしろというのだ。

 詐欺や狂言の常習犯。

 そして、器物破損と傷害の事件の犯人と成り下がった輩を我が輩にどうしろというのだ!

 ……ふむ。

 成る程。

 件のキモメガネを抹殺しろと命じているのであるな。

 喜んで引き受けようでは無いか。


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2007/01/17(水)