太陽が完全に沈んだ頃、館で三人は少し遅い夕食をとっていた。三人では広すぎる食堂の中に長いテーブルがあり、その四分の一だけを使っている。
それでも、 三人では有り余るほどの、いつもより多めの料理が並べられている。
今日はヴァルクの誕生日と言うことで、ユリアが張り切って作ったのだ。
その料理は、キノコのスープから始まり、この辺りでは珍しい鹿のソテー、そしてユリアの得意料理。
ますが一匹は言ったグラタンなど、数多くの料理が並べられている。
料理の中心には大きなケーキもある。
また、それぞれのグラスにはワインが注がれている。三人がグラスを持ち、小さなバースデーパーティーが始まった。
「乾杯!」
「乾杯!」
主役であるバルクがグラスを掲げ、ジースとユリアがそれに答えた。
「お兄ちゃん誕生日おめでとう」
「ありがとう、ユリア」
ユリアは、料理をとりわけ始めた。
「これで、師匠も30か・・・。歳はとりたくないねえ」
「何か言ったか?ジース?」
ヴァルクが手のひらに光球を作り出し、ジースの方へ向ける。
「なんでもないっす!」
ジースは光球から眼を離さず、ユリアが取り分けた料理を配る。
「さあ、師匠食べましょう」
「ああ」
ヴァルクは光球をナイフとフォークに持ち替え、鹿のソテーを口にした。
その時、突然。館のドアがノックもなしに開かれた。そして、ぞろぞろと重装備の男達が入ってくる。それは、近衛兵だった。
それに遅れながら、まばゆいほどの宝石を身に纏った若い男が続く。彼は、デッペルグ第三王子ルミウス。
ルミウスは、王国内で好き放題している。その為、国内での評判は悪い。しかし、彼は、この国で最も強大な魔力を保持している。
この国では、最強の魔術師が王になる。それが、民であろうとも。だが、一般の人間が王になることは無かった。それは、ルミウス達王族の血が、常に最強の魔術師達を生み出して来たからだ。
その時期国王候補のルミウスが、ヴァルクの館に訪れたのだ。
ヴァルクは驚いて、鹿のソテーにむせる。
それでもしゃんとして、ジースとユリアと共に王子の前に出る。
「突然押し寄せて悪いな」
「いえ、この様な館で申し訳ありませんが、いつでも歓迎します」
「それは、ありがたい」
ヴァルクは深々と頭を下げる。それに習うようにしてジースとユリアも頭を下げる。
「我は、ルミウス。そなたの妹が欲しい」
「なっ・・・」
沈黙が走る。突如要人が現れて、ユリアを欲しいと言う。しかも、当のユリアは王子に合ったことはない。いつユリアのことを知ったのか分からないが、三人は動揺していた。
ルミウスがユリアを一瞥する。対してユリアは控えめに会釈する。そして、兄の背中を見つめた。
「これは、唐突ですね。しかし、ユリアの・・・」
「我にユリアは相応しくなく、それに値しない男だと言いたいのか?」
「・・・そうでは、ありません」
「ならば、よかろう?」
一方的な物言いに、ヴァルクはたじろぐ。それを、ジースとユリアが見守る。
「・・・少し時間をください。」
「ふむ。よかろう。決心がついたら我が城に来るがよい。よい返事を期待しているぞ」
そう言って、ルミウスは背を向け、館の外へ出て行く。近衛兵がその後ろをぞろぞろとついていく。
ヴァルクはそれを見送ると、戸を閉めユリアたちに向きかえった。
「さて、どうしたものか」
ルミウスは言った。ユリアが欲しいと。その意味が解らないではない。そして、それは本来玉の輿ということである。
「ユリア・・・」
ジースがユリアを見つめる。
「嫌・・・。私は、あの人の元へ行きたくない」
「ユリア・・・。俺もお前を渡したりしない」
しかしそれは、王宮に逆らうということで、極刑に値する。ユリアがこの誘いを断れば確実に殺されるであろう。
「俺が何とかしてみせる」
「しかし、何とかするって言ったってどうするつもりだ?」
「俺が王になる」
しばし流れる沈黙。
「お兄ちゃんどうしよう」
「困ったな。うーん・・・。」
「シカトするなよ!俺があいつに勝てば俺が王だろ?」
再び流れる沈黙。
「お兄ちゃん!今のうちに一緒に逃げよう!」
「ああ。そうだな。それがいい・・・」
「だーかーらー!!」
要人の訪問した夜。空には月が出ていた・・・。