一章.二話
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太陽が完全に沈んだ頃、館で三人は少し遅い夕食をとっていた。三人では広すぎる食堂の中に長いテーブルがあり、その四分の一だけを使っている。

それでも、 三人では有り余るほどの、いつもより多めの料理が並べられている。

今日はヴァルクの誕生日と言うことで、ユリアが張り切って作ったのだ。

その料理は、キノコのスープから始まり、この辺りでは珍しい鹿のソテー、そしてユリアの得意料理。

ますが一匹は言ったグラタンなど、数多くの料理が並べられている。

料理の中心には大きなケーキもある。

また、それぞれのグラスにはワインが注がれている。三人がグラスを持ち、小さなバースデーパーティーが始まった。

「乾杯!」

「乾杯!」

主役であるバルクがグラスを掲げ、ジースとユリアがそれに答えた。

「お兄ちゃん誕生日おめでとう」

「ありがとう、ユリア」

ユリアは、料理をとりわけ始めた。

「これで、師匠も30か・・・。歳はとりたくないねえ」

「何か言ったか?ジース?」

ヴァルクが手のひらに光球を作り出し、ジースの方へ向ける。

「なんでもないっす!」

ジースは光球から眼を離さず、ユリアが取り分けた料理を配る。

「さあ、師匠食べましょう」

「ああ」

ヴァルクは光球をナイフとフォークに持ち替え、鹿のソテーを口にした。

その時、突然。館のドアがノックもなしに開かれた。そして、ぞろぞろと重装備の男達が入ってくる。それは、近衛兵だった。

それに遅れながら、まばゆいほどの宝石を身に纏った若い男が続く。彼は、デッペルグ第三王子ルミウス。

ルミウスは、王国内で好き放題している。その為、国内での評判は悪い。しかし、彼は、この国で最も強大な魔力を保持している。

この国では、最強の魔術師が王になる。それが、民であろうとも。だが、一般の人間が王になることは無かった。それは、ルミウス達王族の血が、常に最強の魔術師達を生み出して来たからだ。

その時期国王候補のルミウスが、ヴァルクの館に訪れたのだ。

ヴァルクは驚いて、鹿のソテーにむせる。

それでもしゃんとして、ジースとユリアと共に王子の前に出る。

「突然押し寄せて悪いな」

「いえ、この様な館で申し訳ありませんが、いつでも歓迎します」

「それは、ありがたい」

ヴァルクは深々と頭を下げる。それに習うようにしてジースとユリアも頭を下げる。

「我は、ルミウス。そなたの妹が欲しい」

「なっ・・・」

沈黙が走る。突如要人が現れて、ユリアを欲しいと言う。しかも、当のユリアは王子に合ったことはない。いつユリアのことを知ったのか分からないが、三人は動揺していた。

ルミウスがユリアを一瞥する。対してユリアは控えめに会釈する。そして、兄の背中を見つめた。

「これは、唐突ですね。しかし、ユリアの・・・」

「我にユリアは相応しくなく、それに値しない男だと言いたいのか?」

「・・・そうでは、ありません」

「ならば、よかろう?」

一方的な物言いに、ヴァルクはたじろぐ。それを、ジースとユリアが見守る。

「・・・少し時間をください。」

「ふむ。よかろう。決心がついたら我が城に来るがよい。よい返事を期待しているぞ」

そう言って、ルミウスは背を向け、館の外へ出て行く。近衛兵がその後ろをぞろぞろとついていく。

ヴァルクはそれを見送ると、戸を閉めユリアたちに向きかえった。

「さて、どうしたものか」

ルミウスは言った。ユリアが欲しいと。その意味が解らないではない。そして、それは本来玉の輿ということである。

「ユリア・・・」

ジースがユリアを見つめる。

「嫌・・・。私は、あの人の元へ行きたくない」

「ユリア・・・。俺もお前を渡したりしない」

しかしそれは、王宮に逆らうということで、極刑に値する。ユリアがこの誘いを断れば確実に殺されるであろう。

「俺が何とかしてみせる」

「しかし、何とかするって言ったってどうするつもりだ?」

「俺が王になる」

しばし流れる沈黙。

「お兄ちゃんどうしよう」

「困ったな。うーん・・・。」

「シカトするなよ!俺があいつに勝てば俺が王だろ?」

再び流れる沈黙。

「お兄ちゃん!今のうちに一緒に逃げよう!」

「ああ。そうだな。それがいい・・・」

「だーかーらー!!」

要人の訪問した夜。空には月が出ていた・・・。



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