一章.三話
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次の日、日の光と鳥のさえずりとともに、ジースは目を覚ました。

それと同時に、ふと昨日の事を思い出す。

いきなりやって来たと思ったら、突然ユリアが欲しい・・・。まったく、突拍子もねえな。

「まあ。でも、なるようになるさ」

そうつぶやくと起き上がり、頭を掻きながら食堂に向かって歩き出した。



食堂にはすでにヴァルクとユリアがいて、食事は並べられていた。二人の間に会話は無い。

「おはよう。朝から二人とも何暗い顔してんだ?」

「だって・・・」

「まあいいや、飯にしようぜ。なんにせよ飯ぐらいは食わないとな」

言うが早い、ジースは早速、朝食に手をつけ始める。

しばらくしてヴァルクが口を開く。

「・・・ジース昨日の言葉は本気か?」

「ああ。やるぜ師匠」

「ふむ・・・」

それきり黙り込みしばし考え込む。

「後で私の部屋にきなさい」

「ん?説教はごめんだぜ?師匠がなんと言おうと俺はあいつを倒す」

ヴァルクはそれきり何も言わなかった。

食事を終えたジースは、ヴァルクの後について彼の部屋へと向かった。

「そこに座りなさい」

彼の部屋にひとつある椅子にジースを座らせる。

ヴァルクの部屋には物が少なくベッドと机。そして、本棚ぐらいだろうか。

「お前には、強大な魔力がある。それは私の知る限りでもかなりのものだ」

「なら、ユリウスに勝てるってことですか?」

ヴァルクは、ジースの短絡的な思考にため息を漏らしつつも続ける。

「お前は、実戦をしたことが無いだろう?実戦で身につく経験と技術は馬鹿に出来んよ」

「では、実戦を積めということですか?」

対して、ジースは若干の苛立ちを見せ無意識のうちに言葉に力が入る。

「そうだ。このデッペルグの何処かに、コロッセウムがあるらしい。詳しくはまだ解っていないが、裏についてるのは貴族や王族の関係者との噂もある」

「・・・町の治安を守る高等僧侶様の言葉とは思えないな」

「ルミウス王子は私が何とか理由をつけて時間を稼ぐ。それまでそこで暴れて来い」

「おう。必ず強くなって戻ってくるぜ!」

「これを・・・」

2枚折にしたメモをジースに差し出す。

「これは?」

「コロッセウムのおおよその位置だ。私がお前にしてやれるのはここまでだ」

「ありがとよ!師匠!」

言うが早いとそのままジースは館を出た。

お前なら、出来るかもしれないな・・・。出来るだけの事をやってこい。

その姿を見ながら、不安を感じつつも祈りジースを見送った。

「お兄ちゃん。何の話をしていたの?ジースが、ものすごい勢いで走り去っていったけど・・・」

「ユリア。お前は何も心配しなくていいんだ」

いつの間にかドアのところにいたユリアは少しうかない顔をしていた。

ヴァルクが彼の部屋にジースを呼び出したと思ったら、ジースは走り出していった。彼女にとっては不思議で仕方が無いだろう。

「あいつは、お前を必ず守ってくれる。だから心配するな」

「変なこと吹き込んだんじゃないでしょうね?」

「今のあいつに必要なものを与えてやっただけだ」

何を言っても無駄。そんな気がしたのでユリアは何も言わなかった。

変わりにひとつ。小さなため息をついた・・・。



さて、このあたりのはずなんだが・・・。

ジースは、ヴァルクに渡されたメモを元にコロッセウムの場所を探していた。しかし、これといった建物は見つからない。

ならばと思い、コロッセウムに参加しそうな輩を探すがそれも見当たらない。

おっかしいな。確かにこのあたりのはずなんだが・・・。

ジースは日が、暮れてもあたりを探し続けた。さすがに、コロッセウムはどこですか?などと通行人には聞けずぐるぐるとあたりを徘徊する。

諦めて今日は帰ろう。そう考え始めたとき、背後に気配を感じた。ジースは、人気の無いところへと何気なく向かった。

「お前、さっきからここで何をしている?」

完全に人気の無いところまで来たところで、後をつけてきた男に声をかけられる。

「コロッセウムってのを探していたんだ」

「どこでそれを・・・?」

「さぁな。案内してくれるんじゃないのか?」

男はしばし考えるそぶりを見せ、ジースをにらみつける。

「まぁいい。来い」

男はそれきり黙ったまま、人気の無い道を歩き続け、やがて一軒の廃れたバーにたどり着く。

そろそろ、営業を始めてもよさそうなものだが、店には明かりが灯っていない。

ふと、騙されたか?と考える。が、次の瞬間。なるようにしかならないかと思いジースはバーに踏み込んでいった・・・。



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