一章.四話
前のページへ  l  トップへ  l  次のページへ

一切の光を通さない部屋。故に窓は無い。そしてここは地下。ジースはそんなところにいる。

どれぐらいの時間が過ぎたか。30・・・。いや、1時間ぐらいか。

あれから、あの男にこの部屋で待つように言わた。その際、身体チェックなぞされたが、それ以外は何も無い。

四方の壁は隙間無く、息苦しさを覚える。

おおよそ長い間油を注していないであろう扉が音を立てて開く。

そして、あの男が姿を見せる。

「時間だ・・・」

男は出てくるように、そぶりで促すと、つかつかと歩き出す。ジースは何も言わずその男の後を追う。

やがて、前方から光が刺し込み、続いて喧騒が聞こえ始める。

それに近づくにつれ理解した。自分がこれから何をするのかを。

「あー。いきなりかよ・・・」

円形にくり貫かれた地下。まさか、これほど大きいとは。そして、数百の観客。

よく見れば、数人の魔術師が、結界を張っている。観客への配慮だろう。

これほどの物と人をよくも隠しとおせるものだと内心ジースは感心していた。

その中に踏み入れた瞬間通路へ続く扉が閉じられる。同時に逆側の扉が開かれる。

突然、どこからとも無く聞こえるアナウンス。

「今宵、最初カードは、名も無き迷い子と怒れる繋がれた獅子!名も無き迷い子の運命やいかに!」

誰が、名も無き迷い子だ。悪態つきながらも前に出る。

すると客席から、剣が投げ入れられた。

「名も無き迷い子君。必要なら使いたまへ」

先ほどのアナウンサーらしき男が笑顔で手を振る。

「もちろん。魔法も好きなだけ使えばいい。ルールは無い。どちらかが絶命した時点で終了だよ」

言い終えたころ、逆の扉の奥からじゃらじゃらと鎖を引きずる音が聞こえてくる。

姿を現したのは青い獣。獅子と言う割に、その面影は狼に似ている。

それは、首輪を嵌められ、半端な長さの鎖を引きずっている。

やがて、逆の扉も閉じられる。

睨み合うジースと獣。

ジースが剣を引き抜くと同時に、獣が咆哮をあげながら跳躍する。

2ステップでジースまでの距離をいっきに縮め、3スッテップ目でジースに襲い掛かる。

それを正面からたてに剣で思い切りたたきつける。

が、高音とともにその刀身は折れ、左腕を食いちぎられる。

わーーーっ!と観客の歪んだ喜びの声。

「がぁぁぁ!!」

少し遅れてジースは苦痛に叫び声をあげる。が、魔術で瞬時に腕を修復する。

再び飛び掛ってくる獣。それに、火球をぶつける。

獣は、まったく物怖じずそのままジースに体当たりする。

とっさに腕でガードしたが吹き飛ばされ、両腕の骨は砕け散る。

遠のく意識を必死でとどめ、両腕を修復する。

冗談じゃねぇぜ。剣も魔法も通じないのかよ!

容赦なく襲い掛かる獣、その度ジースの身体は傷つき、それを回復。その繰り返し。

「これならどうだ!」

ジースは、両腕を前にかざす。すると地面から泥が噴出し獣を包む。そして、瞬時に固まり岩となる。

静まる観客。が、獣はなおも動き出す。ぴしぴしと岩を砕く音。それとともにジースに襲い掛かる。

スピードこそ格段に落ちたもののその力はまったく落ちていない。

「化け物め・・・」

再び、場が騒がしくなる。

獣の巨体を避けきれず、ジースはそのまま壁にたたきつけられる。

傷を修復し、立ち上がる。

再び両手を前に突き出し、今度は巨大な火球を作り出す。

「だったら力押しだ!」

それを、獣にぶつけ。取り込み、更に、巨大な質量の圧力を持って押しつぶす。

それでも、そこから抜け出そうと咆哮をあげ、もがく。

そのとき、熱と圧力に耐え切れず。鎖が消滅する。それとともに獣は燃え上がり炭と化した。

なるほど、実態は首輪だったわけだ。通りで魔術が効かないはずだ。

ジースは、拍子抜けしつつため息を吐いた。

そして、アナウンサーがジースの勝利を告げる

「終了!勝者名も無き迷い子!」

盛大な歓声によってその勝利が称えられた。

これが、彼の試練の始まりである。



前のページへ  l  トップへ  l  次のページへ