夜、ユリアは、館でジースの帰りを待ちながら、夜空を見つめていた。
ふと、そのオールドブランの長い髪をなでながら、ジースの事を考える。
俺が王になる。彼はそう言った。その恥ずかしい台詞に耐えられなくて茶化した。
今も思い出して、こそばゆくなる。だが、悪い気はしない。
そんなことを考えていると、館のドアが開く音が聞こえた。ジースが帰って来たのであろう。
とてとてと、玄関に向う途中でジースを見つけた。
「おかえりなさい」
「ただいま・・・」
言葉に覇気が無い。暗くて顔色は伺えないが、冷や汗らしきものが確認できる。
ジースがふっと足から崩れ落ちる。それに気づき、ユリアが支えようとする。
が、寄りかかるようにして崩れたかと思うと、丁度水風船が割れる様にパシャパシャと四肢が落ちる。
「ちょっと・・・。ジース!?」
次第に、漂いはじめる血の匂い。思わずジースを落としてしまう。
「おにーちゃーーん!」
取り急ぎ、魔術で止血を施しながら、兄を呼ぶ。
「何があったのよ!ジース!」
「ちょっと、派手に転んじまった」
ジースはそれきり、何もしゃべらなくなる。ユリアの瞳から涙が零れ落ちる。
何故!?そればかりが彼女の頭に浮かび、最終的に自分のせいだと思いつめる。
「・・・ジース」
「どうした?ユリア・・・。これは、酷いな・・・」
駆けつけたヴァルクはジースを見るなり顔をしかめる。
「お兄ちゃん!」
「ユリア、後は任せてお前はもう寝なさい」
「でも・・・」
ヴァルクはその場で、ジースの治療を始める。
「ジースの術が不完全で、上手く腕を維持でき無かったんだ」
そう言って、淡々と魔術で四肢を治し始める。
「心配するな。すぐに治る・・・」
言いかけて、振り返るとすでにユリアはいなかった。
気にせず、魔術で、四肢の修復を続ける。
「まったく、どうすればこんな事になるんだ・・・」
お前が、簡単に死ぬとは思ってはいない。だが、この姿をユリアに見られたのは面倒だ。
もう、お前をユリアは行かせてくれないかもしれないな・・・。
ユリアは泣いていた。
己の責任と無力さに対して・・・。
私が、ユリウスの元に行けばジースは、傷つかなくて済む。
だけど、彼は、きっとそれをよしとはしない。例え、自身が滅びようとも、ユリウスに立ち向かう。
でも、このままじゃ・・・。
ユリアは、胃にヒシヒシとした痛みを覚える。
どうすればいいの・・・。
おそらく彼女の問いに答えられる者はいないだろう。
そのジレンマに彼女は、眠ることさえ許されなかった。
「ジース・・・。ほら、起きろ!」
翌日。ヴァルクの声でジースは目覚めた。
四肢に異常は無い、完全に治ったようだ。
「師匠?おはようございます」
そういうと、ジースは、両腕の感触を確かめはじめる。
「さて、何があったかはともかくとして、これからどうするんだ?」
その言葉に、ジースはいぶかしげな顔をする。
「どうするって、また、戦いにいくけど」
「ユリアにはなんて説明するんだ?」
「・・・全部話すよ」
それを聞きヴァルクは少し考えるしぐさを見せる。
「そうか・・・。だが、あいつがお前を・・・」
「話さなきゃ、何も始まらないさ」
話を途中で切り上げ、起き上がり部屋を出た。
なんだか面倒なことになっちまったな。
ユリアを探すため食堂に向かう。
しかし、そこにユリアの姿は無かった。