あれから、一週間が過ぎた。
その間ユリアは、何事も無かった様に振る舞い、また、ジースを止めることもなかった。
少し気にはなったが、コロッセウムに通い続けた。今日もその帰りだ。大分慣れて、大けがをするようなことも無くなった。
そして、彼は既に一財産築いていた。
さすがに命を賭ける戦いだけあって、かなりの金が手に入る。既に国の人間の平均年収程度は貯まっている。
何に使えってんだ、こんなに。
別段、欲しいものがあるわけでなしに、その使い道に困る。
まぁ、欲しい物がなければ無理に使うこともないか。
そんなことを考えながら、街を歩く。と、ガラス越しに、オルゴールが目に入った。
贈り物に最適!と、書かれたPOPが、彼の興味を更に惹く。
あいつに、贈り物なんてしたこと無かったな。あいつは、喜ぶだろうか。
店に入り、そのオールゴールを手に取る。小さな箱。派手な装飾は無い。そのまま、店主に包むよういいつけ、店を出た。
初めての贈り物。恥ずかしさを覚えるが、同時にわくわくしていた。自然と足取りも軽くなる。
いつもより、時間の流れが速く感じるのを感じながら家路についた。
館に着くと、早々にルミウスが護衛を連れてやってきた。相変わらずキラキラと着飾っている。
三人は直ぐに出迎えると、深々と礼をする。
「なかなか、来ないのでこちらから失礼した」
あれから一週間しかたってねえじゃねぇか。
ジースは、聞こえないように言ったつもりだったが、ルミウスに睨まれる。
「で、早速だが、返事を聞きたい」
「私は・・・」
ユリアはそれきり、うつむき何も言わなくなる。
「ユリアはまだ、決心がつかないのです。どうか、お時間を・・・」
「時間は与えた。それで決心がつかないと言うのは、ソレが答えと言うことであろう?」
「それは・・・」
引き下がるヴァルク。それに見かねてジースが吠える。
「お前に、ユリアは渡さない!」
「君に聞いているわけでは無いのだが?」
「俺は、ユリアを渡さない。だから、俺が王になる!」
沈黙。ユリウスは疲れた表情を見せる。
「意味がよくわからないのだが・・・」
「この国は最も優れた魔力を持つ者が王になる。だったら、あんたを倒せば俺が王だ!」
先ほどより、尚疲れた顔を見せるユリウス。
ルミウスは少し考えた。
やけに自信があるようだが、こんな名も知れていないような男が自分にかなうはずもない。
「いいだろう。しかし、私が勝てばユリアを貰い受けるぞ」
ヴァルクに向かって返事を促す。
「・・・ユリアは、それで良いのか?」
ユリアはジースを見つめる。
「ジース・・・」
「心配するなユリア。俺は絶対お前を渡したりしない」
「でも・・・」
「ああ。そうだ、これをお前に渡そうと思ってたんだ」
といって、包みをユリアに手渡す。
「これは?」
「贈り物ってやつだ。いらないならやらん」
やはり照れ臭く、声が裏返える。
「ありがとう」
大事そうにそれを抱きしめるユリア。そして、決心する。
「分かりました、それで、構いません」
そのやりとりを見ていたユリウスは嫉妬を覚え、いらだちをみせる。
「おい、貴様。名をなんと申す」
ジースにを指さす。
「ジースだ」
「ジースよ。必ず貴様を後悔させてやるから覚えておけ!」
ユリウスは、そのまま、背を向け最後に、期日は追って伝えると言い、近衛を連れて去っていった。
それを見送ると、ユリアが口を開いた。
「ジース。私は、あの日あなたが、傷ついて帰って来たときに決めたの。あなたは何を言っても、無茶をする。だったら何も言わないって」
「ユリア・・・」
「私は、ジースを信じているからね」
それだけ言うと、ユリアは自室に戻っていった。