一章.九話
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あれから、ジースは自室に籠もったまま二週間が過ぎた。

その間ヴァルクは王宮に呼ばれ、今回の騒動の後始末を担当されていた。

内容は、ルミウスの王宮裁判の為、その被害者の親族として。

そんなことはいざ知らず、ジースはユリアを甦らせるため、必死に術を編み出していた。

寝ることも食べることも忘れ、ルミウスを呪いながら・・・。

そしてそれは完成した。

ジースは、召還術よりも遙かに膨大な魔力をユリアの中に収束させる。

あまりに大きすぎるため、それはかなり不安定になり、ユリアだけでなく、ジースも包みこみやがて部屋全体に広がる。

それをぎりぎりまで制御する。それでも魔力はふくらみ続ける。

制御できない魔力は切り捨て、術を完成させた。ユリアに再び命が宿る。

が、行き場を失った魔力がジースに集まり、彼は魔力に飲み込まれてしまった。

魔力は、ジースの全てを取り込み、彼の心の中にあるルミウスへの恨み、憎しみ、怒りの感情を媒体として意思を持った。

そして、それは窓を割り、外に出ると、魔力を集め魔王のごとく、次々と有形無形の意思を出現させる。

魔王は悪魔を従え街を破壊しながら城へ向かう。そう。ジースの呪いを叶えるために。

城にある程度近づくと、その危険を察知し、騎士や僧侶が次々と城内から出る。

それらのストックは相当な数に及んだため、悪魔を簡単に押し返すことができた。

しかし、時間がたつに連れ、魔王は、更に強力な意思を作り出すようになり、徐々に騎士や僧侶に疲労が見え始める。

それでもひるむ事無く僧侶は様々な魔術を駆使し、騎士は勇敢に剣を振るう。

400人目の犠牲が出たとき、ドミノ倒しの様に戦士や騎士が倒れ始める。

止む終えず城内に入り、戦力を集中させる。

やがて、魔王は城門に到達し、それを一撃で破壊する。

そして、魔王は、彼の師ヴァルクを見つける。

ヴァルクは、魔王にジースの存在を感じ魔術を解き放つのを躊躇う。すると、僅かに残った意思でジースはヴァルクを転送させた。



城も崩されてしまった。だが、最後に影王の姿が確認された。

これは国王が危機に陥ったとき、自動的に発動するよう組まれた術で、影王は自らを犠牲にして国王を亜空間に閉じこめその命を守る。

それが発動したということは。デッペルグの崩壊を意味する。

そんな中、甦ったユリアが、眼をさました。その隣にはヴァルクがいる。

「ん・・・。お兄ちゃん・・・。私は一体・・・?」

ユリアはやっとの事で起きあがる。

一度、全機能が停止し時間がたっていたため体が重く感じる。

「大丈夫か?」

そう言ってヴァルクは魔術でユリアを回復させる。

「ジース・・・ジースは?」

「ジースは・・・自分を失ってしまった」

「どういう事?」

「窓の外を見てみろ」

ヴァルクはカーテンを開けてやる。

そこら中から煙が上がり、辺りには無造作に人々の亡骸が放置されている。

「うっ・・・」

「ジースの仕業だ・・・」

「何故!?」

「理由は分からないが、自我を失い街を破壊し、城を堕とした」

彼女は立ち上がりドアに向かう。

「ジースの所に行ってきます。お兄ちゃんは少しでも町の人を助けてあげて!」

「わかった」

そう言うとユリアは館を後にした。



城までの道のりは壮絶なものだった。

その道は血で染められ。

そして、その道は血で洗われていた。

彼女はおかしくなりそうな自分を押さえ込み、気を紛らわせるために走り出す。

やがて城が見え始める。しかし、今はもう城では無くなっている。瓦礫しか残っていない。

そこにジースの姿があった。

「ジース!」

彼の目の前にはルミウスの死体が転がっている。

「ジーーーース!!」

彼女は叫んだ。それに気づいたジースは振り返り、手に光球を作り始める。

「ジーーーーーース!!!」

ようやく叫びが届いたのか、ジースの手が止まる。しかし直ぐに動き出し、光球を投げつける。

ユリアは思わず目を瞑る。

が、光球はユリアを逸れて彼方へと飛んでいく。

「ジース?」

ジースは1人もがき始めた。

それは徐々に強くなり、やがてジースは光に包まれそしてユリアの前から姿を消した。

「ジース・・・」

彼女はそこにずっと立ちつくすばかりだった。



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