二章.十話
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青空の下、神殿では昼食をとるのに、手頃な場所を探す二人の姿があった。

一人は、白いローブを身に纏い、一人は紫色のローブを身に纏っていた。

紫色のローブはぶんぶんと弁当を振り回している。彼の名はジェラル。

彼は、古代魔術の解読や研究、整理を行う僧侶の見習い。

もう一人のほうがハーク。彼は、騎士の見習いとして神殿に仕えている。

彼らは無二の親友で、幼い頃から何をするのも一緒だった。

「しかし、あの古文書は何なんだろう?何で封印したんだろう?」

「古文書の方はよくわからねーけど。巻物の方は多分死者を甦らせる術。もっとも膨大な魔力とその制御が必要だ。あんなの使える奴はいねぇよ」

「お前もか?」

ジェラルはハークを睨み付けながら、魔術でふわふわした雲のようなものを作りだし、ハークの頭に雨のようなものを降らせる。

「試してみよう。ちょこっとだけ死んでみろ」

ふわふわした雲がころころと雷を起こす。しっかり、50万ボルトは有りそうだ。

「分かった!分かったから止めろ!」

「分かればいいんだ」

ぱちんとジェラルが指を鳴らすと、ふわふわはなくなり、小さい太陽のような姿に変わり消滅する。

「まあ、冗談そこそこに使えねぇ事はない」

「というと?」

「魔術を構築することはできるんだが、制御できるか分からない。魔力って言うのはある程度集まると、今度はその集めた魔力がひとりでに魔力を集め出すんだ」

「そんな事、聞いたことがないぞ?」

「当たり前だ。それだけの魔力を集めることが出来る奴なんて俺ぐらいだ」

自慢しつつも控えめなジェラルの態度が引っかかった。

「お前・・・やったこと有るだろう?」

「・・・ああ。山が一つ消し飛んだ。そのせいでミィーチェちゃんに殺されかけた」

ミィーチェちゃんとは、ジェラルの先生でありお守り役でもある。

古代魔術の研究家で、神殿一のサディストとして有名だ。

彼女は唯一無二のジェラルの天敵。ジェラルを鞭で叩くことを至上の喜びとしている名物教師だ。

「お前らしいな・・・」

「と、いうことで、この事を知っているのは、俺とお前とミィーチェちゃんだけだ」

「騒ぎにならなかったのか?」

「俺が魔術で治したんだよ」

どうやって?ハークは口に出さずに困惑する。

本来、魔術で0からものを作り出すと集めた魔力は時間がたつに連れて拡散してしまう。

そして、ジェラルの話が本当だとすれば、魔力をある程度集めると(といっても普通の人間には不可能)今度は魔力が魔力を呼んで恐ろしいことになる(例えば山一つ消し飛ぶ)。

もしかするとジェラルは、魔力をぎりぎりのところで均衡を保ち拡散も暴走もさせない術を持っているのかも知れない。

ハークはそんなことを考えていた。

本当は隣の国の山を持ってきて誤魔化しただけなのだが・・・。

「この辺りにしようか?」

ハークは大きな木の木陰を指さす。

「ああ。そうしよう。それにしても今日は暑いな」

「そうだな、まだ夏には早いけどな。嵐でも来るのかもな」

ハーク達は、木に腰掛け弁当を広げる。彼らの弁当は、ハークの妹ユリアスが作ったものだ。

「そう言えばユリアスはどうした?」

ジェラルは、広げた弁当を見つつユリアスを思い出す。

「後で来るから、先に食べててくれってさ。」

「ふーん」

「喰わないのか?」

「ユリアスが来るまで待つ」

そんなこと言われたら食べにくいじゃないかとハークは思ったが口にはしない。ハークは弁当を包みなおす。

「うーむ・・・。おまえそんなにユリの事が好きなのか?」

「何で分かるんだ?」

図星か・・・。にしてもわかりやすすぎる。

ジェラルの顔はトマトみたいに赤くなっている。

「ユリもお前のことを気に入っているみたいだから、事によったら事によるかもしれないぞ」

「本当か?ユリアスも俺の事が好きなのか?」

「・・・多分な」

ジェラルは目を輝かせ、期待に胸をふくらませている。

事によったらっていっただろうと思いつつ彼の気分を壊さないためそっとしておいた。

突然ジェラルが立ち上がる。

「ユリアース!!!あいしてるぞー!!!!」

「ば・・・バカ!なにやってんだよ!」

ばさばさばさ。

ジェラルは振り返った。ハークも振り返った。そこにはユリアス当人がいた。

顔を真っ赤にして、手に持っていた本の山を全て落とした。

「ユリ・・・いつからそこにいたんだ?」

まあ、ここにいなくても大声で叫べば聞こえてしまう。

「えっと・・・二人を驚かせようと思ったんだけど、そんな話になって出るに出られなくて・・・」

気まずい空気が流れる。しばらくして、ジェラルがいきなり口を開く。

「好きだユリアス。俺と結婚してくれ!」

「って、それは早いだろう、ジェラル・・・。」

「いいよ・・・」

「えっ?」

「私も前からあなたのことが気になって・・・」

「ユリアス」

そして、二人は見つめ合う。ハークは、ここから離れる事にした。

まあ、きっとこういう事もあるのだ。よく分からないが取りあえず納得し、神殿の方へ歩き始める。

それにしても弁当を食いっぱぐれてしまった。これからどうしよう?財布と相談してみることにした。

銀貨が三枚入っていた。これで何か食べよう。昼休みも残り少ないので、神殿の中の食堂で食べる事にした。



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