二章.十三話
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ミィーチェの後を追うと、やがて医務室にたどり着いた。

「ジェラルはここで待て!」

「ハーク。入りなさい」

言われるままハークは医務室に入る。

ベッドにはユリアスが寝かされていて、側にはエリが付いていた。

ユリアスを診る医者の顔は、ユリアスの容態の悪さを物語る。

医者はそっと、毛布を掛けてやる。

「一応薬を打ってみるが効果は薄い」

医者の言葉は残酷だが、気を遣われてよく分からないよりはいいだろう。

医者は注射器に薬を注ぎ込み、それをユリアスの左腕に打ち込んだ。

「諄い様だが気休めにしかならんよ」

魔術ではどうにもならない。その為、薬に頼るしか無いのだが、その薬もたいしたものは開発されていない。

「霧・・・。ですか?」

「ああ。その様だ」

「私が、帰りが遅いからから、迎えに行ったんだけど、ユリアス・・・。シールドを張ってなかった。まだ、霧を吸い続けてた・・・」

エリは泣きながら、ハークの前に崩れ落ちる。

かなり動揺している。いつものボケっとした表情はなく真剣で、エリがエリでないようにさえ思えた。

「まあお茶でも入れるから飲みなさい」

そう言うと、医者はお湯を沸かし始める。

「ユリアーーース!!!」

けたたましい叫びと共にジェラルが入ってくる。どうやら、ミィーチェに話を聞いたようだ。

「ハーク、ユリアスの様子はどうだ?」

「それが、あまり良くないらしい。今日はここに泊まっていくよ」

そう言うとハークは、医者に今夜泊りこませてもらうため。話をしにいった。

ジェラルはユリアスにそっと近づき、顔をのぞき込んだ。

相変わらず、力なく青白い顔をしている。

その様子に気づいたのか、ユリアスが静かに目を覚ます。

やや色気を帯びたその顔をジェラルは見つめ口づけを交わす。

ユリアスはそっと微笑み、また静かな眠りに入った。

「ユリアス・・・」

ジェラルは情けない声を上げる。

「ユリアスが死んじまったら俺はどうすりゃいいんだよ・・・」

そんなことを呟く。

「ジェラル・・・。茶でも飲め」

いつの間にか戻っていたハークがジェラルに茶を差し出す。

「ハーク・・・ありがとな」

「ん・・・。ああ」

普段見せない弱気なジェラルの言葉に違和感を覚え返事を濁す。

「ジェラル?」

返事はない。寝てしまったようだ。

「君も寝たらどうかね?」

「何かあったらお呼びしますのでどうぞお休みになって下さい」

「ふむ。悪いがそうさせてもらうよ。」

医者はそそくさと自室へ向かった。

「ふぅ・・・」

「大丈夫?疲れた?」

「ああ・・・」

ハークは頭の中で事態を整理していた。だが、上手く行かない。

夜はじわじわとふけていく。

「ハーク・・・」

「どうした?エリ」

「大切な人がいなくなったら悲しいよね?」

「ああ・・・」

「それが私でも?」

「当たり前だろ?」

「当たり前っか・・・それじゃあちょっと寂しいよ」

エリはハークに寄りかかる。

「こうしていてもいい?」

「ああ・・・」

エリがこうしてハークに寄りかかることで、ハークは少しだけエリが言いたかったことが理解できた気がした。

「エリ?」

返事はない。

「オヤスミ・・・」

一人になったハーク。だが、眠りにつくことは無かった。



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