ミィーチェの後を追うと、やがて医務室にたどり着いた。
「ジェラルはここで待て!」
「ハーク。入りなさい」
言われるままハークは医務室に入る。
ベッドにはユリアスが寝かされていて、側にはエリが付いていた。
ユリアスを診る医者の顔は、ユリアスの容態の悪さを物語る。
医者はそっと、毛布を掛けてやる。
「一応薬を打ってみるが効果は薄い」
医者の言葉は残酷だが、気を遣われてよく分からないよりはいいだろう。
医者は注射器に薬を注ぎ込み、それをユリアスの左腕に打ち込んだ。
「諄い様だが気休めにしかならんよ」
魔術ではどうにもならない。その為、薬に頼るしか無いのだが、その薬もたいしたものは開発されていない。
「霧・・・。ですか?」
「ああ。その様だ」
「私が、帰りが遅いからから、迎えに行ったんだけど、ユリアス・・・。シールドを張ってなかった。まだ、霧を吸い続けてた・・・」
エリは泣きながら、ハークの前に崩れ落ちる。
かなり動揺している。いつものボケっとした表情はなく真剣で、エリがエリでないようにさえ思えた。
「まあお茶でも入れるから飲みなさい」
そう言うと、医者はお湯を沸かし始める。
「ユリアーーース!!!」
けたたましい叫びと共にジェラルが入ってくる。どうやら、ミィーチェに話を聞いたようだ。
「ハーク、ユリアスの様子はどうだ?」
「それが、あまり良くないらしい。今日はここに泊まっていくよ」
そう言うとハークは、医者に今夜泊りこませてもらうため。話をしにいった。
ジェラルはユリアスにそっと近づき、顔をのぞき込んだ。
相変わらず、力なく青白い顔をしている。
その様子に気づいたのか、ユリアスが静かに目を覚ます。
やや色気を帯びたその顔をジェラルは見つめ口づけを交わす。
ユリアスはそっと微笑み、また静かな眠りに入った。
「ユリアス・・・」
ジェラルは情けない声を上げる。
「ユリアスが死んじまったら俺はどうすりゃいいんだよ・・・」
そんなことを呟く。
「ジェラル・・・。茶でも飲め」
いつの間にか戻っていたハークがジェラルに茶を差し出す。
「ハーク・・・ありがとな」
「ん・・・。ああ」
普段見せない弱気なジェラルの言葉に違和感を覚え返事を濁す。
「ジェラル?」
返事はない。寝てしまったようだ。
「君も寝たらどうかね?」
「何かあったらお呼びしますのでどうぞお休みになって下さい」
「ふむ。悪いがそうさせてもらうよ。」
医者はそそくさと自室へ向かった。
「ふぅ・・・」
「大丈夫?疲れた?」
「ああ・・・」
ハークは頭の中で事態を整理していた。だが、上手く行かない。
夜はじわじわとふけていく。
「ハーク・・・」
「どうした?エリ」
「大切な人がいなくなったら悲しいよね?」
「ああ・・・」
「それが私でも?」
「当たり前だろ?」
「当たり前っか・・・それじゃあちょっと寂しいよ」
エリはハークに寄りかかる。
「こうしていてもいい?」
「ああ・・・」
エリがこうしてハークに寄りかかることで、ハークは少しだけエリが言いたかったことが理解できた気がした。
「エリ?」
返事はない。
「オヤスミ・・・」
一人になったハーク。だが、眠りにつくことは無かった。