ジェラルは、診療室にいた。
ベッドで眠るユリアスを覗き込む。
真っ白な肌。そして、青紫色の唇。その唇にそっと口づけをする。
「ユリアス・・・。今、生き返らせてやるからな」
すっと、巻物を広げ、術を解読しイメージしていく。そして、後半部分で違和感を覚える。
前半は、確かに死者を蘇生させる術のようだ。しかし、後半にもう一つ呪文が付け加えられている。
並の魔術師なら一見しただけでは気づかないだろう。
良く見ると、そこだけ新しく付け加えた痕跡が残っている。トラップ。そう、付け加えられた術は、そのトリガーである。
二度三度読み返し、他にトラップが無いことを確認し、ユリアスの前に手を突き出す。
そして、ゆっくりと確実に魔力を集めていく。
その魔力はやがて目に見える小さな光となり、少しずつ肥大していく。
ピシっ。
そんな音を立てて窓にヒビが入るが、構わず続ける。
光は、部屋全体を包み込み陽の光に似たまぶしさを覚える。
魔力は、こんなものだろう。
左手で、額の汗をぬぐう。
集めた魔力で術を実にゆっくりと組み立てていく。
そして、ゆっくりと光が小さくなり、ユリアスに収まっていく。
成功か?
先日、古文書を読んだかぎりでは、安心できない。
そっと、ユリアスに触れてみる。すると僅かだがぬくもりが戻った気がした。
脈を計ると、ゆっくりと確実に鼓動しているのが解る。
「ユリアス・・・」
呼びかけてみると、うっすらと目を開けた。
「ジェ・・・。ジェラル・・・?」
どうやら、何事も無く術は成功したらしい。
「待ってろ・・・。今、暖かくしてやるから」
そう言って、魔術でユリアスを暖めてやる。
「ありがとう。私・・・」
「いいんだ。もう、大丈夫だ」
ぼーっとするユリアス。が、はっとして、窓の外を見る。
「安心しろって。何も起きちゃいない」
「でも、ジースは・・・」
「俺は世界一の魔術師だ!失敗なんてするかよ」
「ジェラル」
ばん!
診療室の扉が開かれ、ハークが現れる。
「ジェラル!!おま・・・」
目を覚ましたユリアスを見て、硬直する。そして、直ぐに窓に駆け寄る。
「だーかーらー。何も起きてないって!」
「成功・・・。したのか?」
ハークは、ユリアスに近づきそっと、その頬に触れる。
「くすぐったい」
「あ。ああ・・・。悪い」
本当に、生き返った。改めて、それを感じ目頭が熱くなる。
「よかった・・・」
「泣かないで、お兄ちゃん」
その言葉を合図に、ハークの目から涙がこぼれ始める。
「でも、どうして・・・」
「恐らくジースが失敗した理由は二つ。一つは、ユリウスを呪いながら魔法を構築したこと。もう一つは、魔力が多すぎたからだと思う」
ジェラルはいつもの調子で偉そうに説明する。
「そうか・・・。今回は人為的なものじゃなかったから成功したんだな?」
「それだけじゃないぜ?俺様の華麗なる制御があったからこそだ!」
ニヤリっと、白い歯を光らせて戯れ言をほざく。
そこに、エリもやってきた。
「な・・・。どうして?」
エリも急いで窓に近づき外の様子を見る。
「だーかーらー!」
「あれ?いま、人影が・・・」
「なに!?」
四人は、一緒になって外を見るがそれらしきものは確認できなかった。
「何もないじゃないか・・・」
「あっれ〜。おかしいなぁ。確かに人がいたような気がしたんだけど・・・」
「ったく、おどかすなっつの」
うーん。っと納得がいかなそうなエリだったが、気のせいだったのかも?っと、考え直し忘れることにした。
「ユリアス〜」
エリはがばっとユリアスを抱きしめる。
「暖かい・・・。本当に暖かい・・・」
「エリちゃん、恥ずかしいって・・・」
照れながらも、まんざらでもない顔をしているとジースが吠えた。
「おれのユリアスから離れろ!」
奇跡の起こった朝。そこに日常が戻った瞬間だった。
だが、ジェラルは一つ大切なことを忘れていた・・・。