二章.十五話
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ジェラルは、診療室にいた。

ベッドで眠るユリアスを覗き込む。

真っ白な肌。そして、青紫色の唇。その唇にそっと口づけをする。

「ユリアス・・・。今、生き返らせてやるからな」

すっと、巻物を広げ、術を解読しイメージしていく。そして、後半部分で違和感を覚える。

前半は、確かに死者を蘇生させる術のようだ。しかし、後半にもう一つ呪文が付け加えられている。

並の魔術師なら一見しただけでは気づかないだろう。

良く見ると、そこだけ新しく付け加えた痕跡が残っている。トラップ。そう、付け加えられた術は、そのトリガーである。

二度三度読み返し、他にトラップが無いことを確認し、ユリアスの前に手を突き出す。

そして、ゆっくりと確実に魔力を集めていく。

その魔力はやがて目に見える小さな光となり、少しずつ肥大していく。

ピシっ。

そんな音を立てて窓にヒビが入るが、構わず続ける。

光は、部屋全体を包み込み陽の光に似たまぶしさを覚える。

魔力は、こんなものだろう。

左手で、額の汗をぬぐう。

集めた魔力で術を実にゆっくりと組み立てていく。

そして、ゆっくりと光が小さくなり、ユリアスに収まっていく。

成功か?

先日、古文書を読んだかぎりでは、安心できない。

そっと、ユリアスに触れてみる。すると僅かだがぬくもりが戻った気がした。

脈を計ると、ゆっくりと確実に鼓動しているのが解る。

「ユリアス・・・」

呼びかけてみると、うっすらと目を開けた。

「ジェ・・・。ジェラル・・・?」

どうやら、何事も無く術は成功したらしい。

「待ってろ・・・。今、暖かくしてやるから」

そう言って、魔術でユリアスを暖めてやる。

「ありがとう。私・・・」

「いいんだ。もう、大丈夫だ」

ぼーっとするユリアス。が、はっとして、窓の外を見る。

「安心しろって。何も起きちゃいない」

「でも、ジースは・・・」

「俺は世界一の魔術師だ!失敗なんてするかよ」

「ジェラル」

ばん!

診療室の扉が開かれ、ハークが現れる。

「ジェラル!!おま・・・」

目を覚ましたユリアスを見て、硬直する。そして、直ぐに窓に駆け寄る。

「だーかーらー。何も起きてないって!」

「成功・・・。したのか?」

ハークは、ユリアスに近づきそっと、その頬に触れる。

「くすぐったい」

「あ。ああ・・・。悪い」

本当に、生き返った。改めて、それを感じ目頭が熱くなる。

「よかった・・・」

「泣かないで、お兄ちゃん」

その言葉を合図に、ハークの目から涙がこぼれ始める。

「でも、どうして・・・」

「恐らくジースが失敗した理由は二つ。一つは、ユリウスを呪いながら魔法を構築したこと。もう一つは、魔力が多すぎたからだと思う」

ジェラルはいつもの調子で偉そうに説明する。

「そうか・・・。今回は人為的なものじゃなかったから成功したんだな?」

「それだけじゃないぜ?俺様の華麗なる制御があったからこそだ!」

ニヤリっと、白い歯を光らせて戯れ言をほざく。

そこに、エリもやってきた。

「な・・・。どうして?」

エリも急いで窓に近づき外の様子を見る。

「だーかーらー!」

「あれ?いま、人影が・・・」

「なに!?」

四人は、一緒になって外を見るがそれらしきものは確認できなかった。

「何もないじゃないか・・・」

「あっれ〜。おかしいなぁ。確かに人がいたような気がしたんだけど・・・」

「ったく、おどかすなっつの」

うーん。っと納得がいかなそうなエリだったが、気のせいだったのかも?っと、考え直し忘れることにした。

「ユリアス〜」

エリはがばっとユリアスを抱きしめる。

「暖かい・・・。本当に暖かい・・・」

「エリちゃん、恥ずかしいって・・・」

照れながらも、まんざらでもない顔をしているとジースが吠えた。

「おれのユリアスから離れろ!」

奇跡の起こった朝。そこに日常が戻った瞬間だった。

だが、ジェラルは一つ大切なことを忘れていた・・・。



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