三章.十九話
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早朝。目を覚ますとハークは、何かいわれのない違和感に包まれているのに気づいた。

何かがおかしい。そう思うと、起きあがり窓の外を見る。

するとそこには、巨大な蜘蛛・・・。と、表現するのが的確だろうか。

大量のそれが、草の上をわさわさと徘徊している。

気持ち悪いぐらいの嫌悪感を覚え、体中に鳥肌が走る。

これは一体・・・。やはり、術に失敗したのだろうか。

取りあえず、隣のベッドで寝ているジェラルの掛け布団をはぎ取り、無理矢理に起こそうと試みる。

「ジェラル!起きろ!」

「んだようっせーなぁ・・・」

ジェラルは、酷く不機嫌そうに自分の頭をがりがりと爪で掻く。

「まだ。四時じゃねーか!」

ちらっと、細目で時計を眺めて、また吠える。そして寝る。

朝に強いハークにとって、寝起きの悪いジェラルは、かんに触る。

だが、今はそれどころではない。場合によっては、再びこの国が滅びるかもしれないのだ。

「起きろって!外に化け物が、わんさか沸いてるんだ!」

かりかりと頭を掻きながら、ジェラルは少し考えるそぶりをしたかと思うと、急に起きあがる。

そのまま窓に近づき、それを確認する。

「おいおいおい。何なんだよこれは!」

ジェラルの額に一筋の冷や汗が流れる。

そして、何を思ったか蜘蛛の化け物めがけて火球を連投する。

何匹かは火球の直撃を受けて燃え上がる。

だが、数百と群がるそれらの前では、焼け石に水程度だ。

「拉致があかねえ。おいハーク!こいつら蹴散らすから手伝え」

「あ・・・。ああ、解った。」

ハークは急いで鎧を着込み窓から飛び降りる。

ここは四階。だが魔術で着地の瞬間、その衝撃を無効化する。

すると、突如現れたハークに向かって、蜘蛛の群れが一斉に襲いかかる。

近くで見るそれは、無機質で動くたびにキシキシと音を鳴らす。

ジェラルが、上から炎の雨を降らせ、的を拡散させる。

それでも、怯まず襲いかかってくる蜘蛛を剣でひとなぎにする。

再び群れをなし、襲いかかって来る蜘蛛にジェラルが魔法を放ち拡散させるの繰り返し。

キリがないな。

さして、驚異はない魔物だが、いかんせん数が多い。

そこにタイミング良く、騒ぎを聞きつけ僧侶や騎士達が駆けつける。

ミィーチェとドレイクの姿もある。

「おい、ハーク。これは何事だ?」

「解りません。朝目を覚まして外を見たらこのありさまで・・・」

窓から、ジェラルも降りてくる。

「各々は、班を組んで化け物の殲滅にあたれ!」

低く響く声でドレイクが指示を出すと、その場に居た者たちは3〜5人の集団を作り、蜘蛛に立ち向かっていく。

「おい。俺たちも行くぞ!」

「ああ。世界一の魔術師の俺様が、あんな奴ら焼き払ってやる!」

そんなやりとりを交わし、蜘蛛目指して駆けていく。



一時間ぐらい経過しただろうか。

既に蜘蛛は駆逐され、騎士や僧侶は元いた場所へと戻っていく。

ハークとジェラルもそれに続く。

途中、エリとユリアスと合流し、そのまま緊急会議を開くべく、ハーク達の部屋へと集まった。

「やはり、術は失敗したのか?」

「そう考えるしかねーな」

「だけど、それにしては、あっけなかったね。古文書の限りでは、これぐらいじゃ済まないはずなのに」

そうだ。蜘蛛の化け物は本当に大したことは無かった。

そして、古文書のように次々と現れるでなく全滅した。

ことごとく、古文書との差異が現れる事態に再び四人は困惑する。

「やはり、不審者の事が気になるな。まずはそれについて調べてみよう」

皆それにうなずく。

水面下で動くその存在に対し、どこか不気味なものを感じる四人だった。



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