三章.二十一話
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 次の日。ハークは仕事を終えると、不審者について調べるため兵舎で聞き込みを行うことにした。

 無論エリも一緒だ。

 兵舎は酷く殺伐としていて、すぐに使えるような物しか置いていない。

 既に、就業時間は終わっているため、そこには、団長ドレイクの姿しかなかった。

 そのドレイクは、何やら机に向かってかりかりと筆を進めている。

「団長〜。最近噂になっている不審者について聞きたいんですけど〜」

 エリは、マイペースでドレイクにため口を叩く。

 だが、ドレイクは別段気にすること無く作業を止めこちらに振り向く。

「興味があるのか?」

「ええ。見習いとはいえ、私も騎士です」

「なるほど。こちらに上の方から調査を依頼されている。だが、これと言って目立った情報はまだ無い」

 ドレイクは、少し考えて、机から一枚の書類を取り出す。

「気になるなら君たちで調べてみるといい。今は化け物のことで忙しし、この仕事は君たちに任せよう」

 すらすらと書類を書き最後に判を押し、ハークに渡す。

「君たちもそろそろ、見習いでいるのも心苦しかろう。この仕事を無事終えたら私の方から上に駆けやってやる」

「有り難うございます」

 不審者についての情報さえ手に入らなかったものの、これで長時間調べることが出来る。

 加えて、これは、一人前として認められるチャンスだ。

 ハークとエリは、弾む気持ちを抑え、ドレイクに一礼して宿舎を後にする。

「ついてるな。調査も出来て一人前になれるチャンスまで手に入るなんて」

「うん。がんばってみよ〜」

「おう! がんばろう」

 二人で手を振り上げ、気合いの意思表示をする。

 が、次の瞬間、そんな浮かれた気分が一転する。

 ギシ……。

 微量だが、聞き覚えのある金属音を捉える。

 まずい。今は、鎧ではなくローブだ。今奴と戦うのは好ましくない

 ひとまず逃げることを選択し、エリの手をつかみ走り出す。

 だが、先回りされ行く手を阻まれる。さらには次の瞬間囲まれる。

「エリ、俺から離れるなよ?」

「おお〜? ハークカッコイイ〜」

 エリは、言動とは裏腹に素早い身のこなしで、ハークに背を合わせ剣を構える。

 ハーク達を取り囲んだ蜘蛛だが、一気に襲ってくることはなく、徐々に距離を縮める。

 その距離が、2メートルを切る。

 それを、皮切りにエリとハークに蜘蛛が、上体を上げ倒れ込むようにして前足を振るう。

 それも2人に対し2体づつ。且つ同時に。

 避けることは出来ない。迫り来る前足を、2人とも寸分違わぬ動きできり落とす。

 2人ともその時生じた耳を障る高音に顔を歪める。

 傷ついた蜘蛛と後方で待機していた蜘蛛が入れ替わり間髪入れずに襲いかかってくる。

 まずい……。そう思った矢先、幾つもの炎の矢が飛んできて蜘蛛を射抜く。

「よう! 俺様の力が必要だろう?」

「ジェラル!」

 まるで、タイミングを見計らったかのような登場。

 そこで、ふと思う。タイミングを見計らったのではないかと。

 ジェラルならそれをやりかねない。

「おい。お前影から見ていただろう?」

「はっはっは。何のことだか解らんな」

 いけしゃあしゃあとシラを切る。

 そんな、ジェラルの後ろにユリアスが隠れているのが見えた。

 戦闘中にそんなやりとりをしていると、蜘蛛が目標を変え、ジェラルに飛びかかった。

 しかし、ジェラルはそれをシールドで軽々と弾く。続いて、ユリアスの手を取り結界を張った。

 ハーク達は、その機を逃さず、後ろから蜘蛛に斬りかかる。

「いいのかハーク。騎士が後ろから斬りつけても……」

「対人戦じゃないからいいんだ」

 冗談言いつつ、とりついた蜘蛛が居なくなったので結界を解き、残った蜘蛛を魔術で一気に殲滅する

「ふー。俺様が居なかったらお前ら死んでいたかもしれないぜ?」

「はいはい。ありがとうございました」

 皮肉をこめて言ってやったつもりだが、事もあろうにジェラルは喜んでいる。

 戦闘の疲れと相成って、ハークはまた大きなため息をついた。



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