その夜。
しばらくは、ここに居ても構わないと言うことだった。
ハークは、エーシャの好意に甘え今は夕食を取っている。
パンとスープという質素なものだが、贅沢は言えない。
「ところで、君名前は?」
「あ。ハークです」
「ハーク君ね。私、凄い君の事に興味あるから色々と教えて欲しいな」
上目遣いに見つめられドキッとする。
もしかして、もしかするのか?
「あ、別にそういうのはないよ」
察したらしい。少し残念だ。
「色々って言われても何から話せばいいか思いつきませんよ」
彼女は、少し考えるそぶりを見せる。
ハークと同様に何から聞けばいいのかわからないのだろう。
「うーん。そうだなあ。どんなところに住んでいるの?」
「湖の真ん中に大きな島があってそこに住んでいます」
湖の上。そう呟いて、エーシャは眼を輝かせる。
その響きに、あこがれを覚えたのかもしれない。
「ふむふむ。君のお仕事は?」
「騎士。の見習いです」
「あら? 格好いいわね」
「そうですか?」
「うん。肩書きが」
笑顔でがっかりさせてくれる。
「か……」
「冗談よ」
どうやら、オモチャにされているらしい。
それからもかなりの数の質問を投げられうんざりする。
ふと時計を見ると2時を回っていた。
「ん?もうこんな時間かあ。続きはまた明日にして寝ましょう」
「はい」
そう言って、2人で先ほどの寝室に向かう。
「って、二人同じ部屋で寝るんですか!?」
「うん。同じベッドで♪」
「同じ!?」
「あれれ。床で寝たいの? 向こうでは床で寝るのが習慣?」
じゃあ、こっちでは、会って間もない男と寝るのが習慣なんですか。
なにやらこの人も一癖ありそうだとため息を吐く。
「ほらほら。突っ立ってないでこっちに来なよ」
既に彼女は布団を被って、おいでおいでと手招きする。
きっと文化の違いなんだ。
そう言い聞かせて、そっとベッドにお邪魔する。
「ふふ。こうして、誰かと一緒に寝るなんて何年ぶりかなあ」
「え? この国の人はみんなこうなんじゃないんですか?」
すっとぼけてみる。
いいにおいがする。何かつけているのだろうか。
「そんなわけないでしょ。私にはね、大好きな人がいたの」
「いたの?」
「うん。でもね、病気で死んじゃった」
「あ……。ごめんなさい」
「別に謝らなくてもいいよ。もう、昔の話だし」
彼女の顔は伺えないが、声色が少し震えているのがわかる。
「彼は、私を愛してくれた。私も彼を愛していた」
今着ているこの服は、その人のものだろうか。
少し、その服に袖を通したのが悪い気がした。
「その人は……」
どんな人だったんですか?
聞こうとして、既に彼女が眠っている事に気が付く。
やれやれ。
なんだか寂しい気もしたが、疲れて居たため直ぐに眠りについた。