三章.二十五話
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 エリは、デッペルグ国内にいた。

 ハークと離れ離れになってから、彼を捜し回った。しかし、見つからない。

 彼女は、ハークを探すことを諦め、神殿にも戻ることを選んだ。

 彼女が神殿に着く頃には、既に日が暮れていた。

 しかし、休まずその足で、兵舎へと向かう。ドレイクに報告するためだ。

 石の道が、疲れた足に堪えるがそれどころではない。

 兵舎に着くと、やはりドレイクは就業時間が過ぎてもそこにいた。

 また何やら書類を書き進めている。

「ドレイクさん。ハークが――」

 事のいきさつを早口でまくし立てる。いつものエリでは考えられない事だ。

「ハークが霧の中で行方不明か……」

 ドレイクは眉を寄せ難しい顔をする。

「何にせよ、今日はもう遅い。明日早くに救出隊を組織して探索をしよう」

 エリは、何か言おうとするが止め、礼をすると兵舎を後にし、宿舎に戻った。

 宿舎に戻ると早速緊急会議の為、ジェラルとユリアを呼ぶ。

 何故ユリアがジェラルの部屋にいて、ドアを開けると至極動揺した仕草を見せたのかは気にしないことにする。

「お兄ちゃんが迷子!?」

「しかも、あの霧の中か……」

 少し、浮ついた口調。どんと机を叩き言い知れぬ怒りを発散させる。

 それを見て二人は反省し、ぴっと背筋を伸ばす。

「でも、何でまたそんなところに行ったんだ?」

 普通そんなところに用は無いだろう。

 もしかして、変なことしようとしていたんじゃないのか?

 ジェラルが、そう考えると僅かに口元がゆるむ。

 その瞬間、エリは、今まで見たこともない様な顔で睨む。

 猫科の猛獣が、獲物をいざ狩らんとする瞳。本能的に恐怖を覚える。

「例の不審者の手がかりを探してたの」

 それだけ言うと急に俯く。

 ジェラルは、エリらしくないな。そう考えると愛おしくなり慰めてやろうと思えた。

 だが、その役はユリアが先に取り、エリをぎゅっと抱き込む。

「大丈夫。お兄ちゃんは、丈夫だからきっと無事だよ」

「でも、あの霧の中だよ? 無事でも出られないかも知れない……」

 エリは震えながら、ぽつりぽつりと涙を流し始めた。

「エリ! 心配するな。この俺が。世界一の魔術師である俺様がハークを探してやる!」

 ここぞとばかりに立ち上がり、戯言を吐き捨る。

「私もお兄ちゃんを捜すよ」

「うん……」

「そうと決まればもう寝ようぜ! 明日は早くから探しに行くぞ!」

 ジェラルが、ぐっと拳を突き出して大袈裟に気合いの意思表示をする。

 ユリアもそれに習う。

「ありがとう……」

 エリのその言葉を最後に三人は、それぞれ眠りにつく事にした。



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