早朝。
今日は、一秒でも早くハークを探し出すため、陽が昇って直ぐに目を覚ました。
いつもは、朝に弱いジェラルだが、今日はいつもと違い何の抵抗も無く起きることが出来た。
あいつが、霧の中でのたれ死ぬなんて考えられねえ。だけど、寂しさに心を痛めているかも知れない。
ジェラルはそう考え、早速ハーク救助隊を組織する。
といっても、公式に組織したわけでなく、三人が勝手に集まっただけだ。
「さあ! 早速ハークを探しに行くぜ!」
「お〜!」
エリは、一晩たって、元気になったらしい。
だが、眼の下が黒ずんでいる。あまり眠れなかったのだろう。
「待って。私達だけで行くの? どうやって霧の中を探すの?」
「きっと何とかなるよ〜」
「えっと。それじゃ、二重遭難しちゃう……」
エリが元気になったのはいい。しかし、その言葉に、ユリアは深い不安を覚える。
そこで、ここぞとばかりに、ジェラルが不敵に微笑む。
「俺を誰だと思っている? 俺は世界一の魔術師だ!」
「うん!」
基本ネガティブなユリアだが、ジェラルのこの言葉を聞くと途端にポジティブになる。
そして、ジェラルもより過激になる。
巨大な悪に立ち向かうかの様に二人は結束し、同じタイミングで腕を振り上げ気合いの意思表示。
打ち合わせたんじゃないか。そう思えるぐらい研ぎ澄まされた動き。
決まった。ユリアをふと見ると視線が合う。それに、キッと微笑んでやって答える。
「青春だね〜」
皮肉の籠められたエリの言葉も何のその。いや、むしろ彼にとってそれは賛美の言葉になる。
「じゃ、気合いも入ったし行こうぜ」
一番大切な、どうやって霧を克服するか。それを根性論で突破して、三人は霧を目指す。
そして、昨日ハークとエリが通った道を歩き、霧のある場所に到着する。
霧は、奥に行けば奥に行くほど濃くなっている。
「さて、諸君。そこで、これの出番だ!」
ジェラルは、そう高らかに叫び、一本の長いロープを取り出す。
「ロープだね」
「ただのロープじゃない。これは、かのサディスト。ミィーチェちゃんから失敬してきたロープだ」
ジェラルは、それを自分に巻き、次にユリア、エリの順番で巻き始める。
「これで、はぐれる事はないだろう?」
「そうだけど、三人まとめて遭難することになるんじゃないかな」
「あ、それについては大丈夫だよ〜。ほら方位磁石」
エリはそそくさと鞄からそれを取り出し、二人に見せる。
しかし、方位磁石の針が不自然にくるくると回り続けたまま止まらない。
もし、その二つでここを自由に回ることが出来るなら苦労は無いだろう。
「回ってるな……。でも、安心しろ。方向ぐらいならどうにかわかるから」
そう言って、手を上に掲げると魔術を構築し始める。
だが終わっても、何ら変化はない。
「何をしたの?」
「ちょっと高度なおまじないだ」
そう言って、深い霧の中へと歩き出す。
ロープの適度な長さが幸いして、歩くのが苦にならない。
だが、足下が見えないため、ユリアが結界で三人を包み込み、霧を弾いて視界を確保する。
「何か不気味な場所だな……」
「足下が、ぬるぬるする」
常に霧に覆われたこの土地は、苔にびっしりと覆われている。
更に、その上に水滴が付着して歩き難くしている。
「お前ら、気をつけて歩くんだぞ」
次の瞬間そう言った、本人が滑ってっころぶ。
直ぐに立ち上がり、ねっとりと手にまとわりつくぬめりをローブでぬぐう。
「うん。気をつける……」
「粘っちいのもどろどろになるのも嫌だからね〜」
ジェラルは何も言わず、奥へと進んでいった。
だが、彼らは気づかない。ハークを探し出すための方法を忘れ、ただ霧の奥へ進んでいる事を……。