三章.二十六話
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 早朝。

 今日は、一秒でも早くハークを探し出すため、陽が昇って直ぐに目を覚ました。

 いつもは、朝に弱いジェラルだが、今日はいつもと違い何の抵抗も無く起きることが出来た。

 あいつが、霧の中でのたれ死ぬなんて考えられねえ。だけど、寂しさに心を痛めているかも知れない。

 ジェラルはそう考え、早速ハーク救助隊を組織する。

 といっても、公式に組織したわけでなく、三人が勝手に集まっただけだ。

「さあ! 早速ハークを探しに行くぜ!」

「お〜!」

 エリは、一晩たって、元気になったらしい。

 だが、眼の下が黒ずんでいる。あまり眠れなかったのだろう。

「待って。私達だけで行くの? どうやって霧の中を探すの?」

「きっと何とかなるよ〜」

「えっと。それじゃ、二重遭難しちゃう……」

 エリが元気になったのはいい。しかし、その言葉に、ユリアは深い不安を覚える。

 そこで、ここぞとばかりに、ジェラルが不敵に微笑む。

「俺を誰だと思っている? 俺は世界一の魔術師だ!」

「うん!」

 基本ネガティブなユリアだが、ジェラルのこの言葉を聞くと途端にポジティブになる。

 そして、ジェラルもより過激になる。

 巨大な悪に立ち向かうかの様に二人は結束し、同じタイミングで腕を振り上げ気合いの意思表示。

 打ち合わせたんじゃないか。そう思えるぐらい研ぎ澄まされた動き。

 決まった。ユリアをふと見ると視線が合う。それに、キッと微笑んでやって答える。

「青春だね〜」

 皮肉の籠められたエリの言葉も何のその。いや、むしろ彼にとってそれは賛美の言葉になる。

「じゃ、気合いも入ったし行こうぜ」

 一番大切な、どうやって霧を克服するか。それを根性論で突破して、三人は霧を目指す。

 そして、昨日ハークとエリが通った道を歩き、霧のある場所に到着する。

 霧は、奥に行けば奥に行くほど濃くなっている。

「さて、諸君。そこで、これの出番だ!」

 ジェラルは、そう高らかに叫び、一本の長いロープを取り出す。

「ロープだね」

「ただのロープじゃない。これは、かのサディスト。ミィーチェちゃんから失敬してきたロープだ」

 ジェラルは、それを自分に巻き、次にユリア、エリの順番で巻き始める。

「これで、はぐれる事はないだろう?」

「そうだけど、三人まとめて遭難することになるんじゃないかな」

「あ、それについては大丈夫だよ〜。ほら方位磁石」

 エリはそそくさと鞄からそれを取り出し、二人に見せる。

 しかし、方位磁石の針が不自然にくるくると回り続けたまま止まらない。

 もし、その二つでここを自由に回ることが出来るなら苦労は無いだろう。

「回ってるな……。でも、安心しろ。方向ぐらいならどうにかわかるから」

 そう言って、手を上に掲げると魔術を構築し始める。

 だが終わっても、何ら変化はない。

「何をしたの?」

「ちょっと高度なおまじないだ」

 そう言って、深い霧の中へと歩き出す。

 ロープの適度な長さが幸いして、歩くのが苦にならない。

 だが、足下が見えないため、ユリアが結界で三人を包み込み、霧を弾いて視界を確保する。

「何か不気味な場所だな……」

「足下が、ぬるぬるする」

 常に霧に覆われたこの土地は、苔にびっしりと覆われている。

 更に、その上に水滴が付着して歩き難くしている。

「お前ら、気をつけて歩くんだぞ」

 次の瞬間そう言った、本人が滑ってっころぶ。

 直ぐに立ち上がり、ねっとりと手にまとわりつくぬめりをローブでぬぐう。

「うん。気をつける……」

「粘っちいのもどろどろになるのも嫌だからね〜」

 ジェラルは何も言わず、奥へと進んでいった。

 だが、彼らは気づかない。ハークを探し出すための方法を忘れ、ただ霧の奥へ進んでいる事を……。



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