四章.三十話
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 ……エーシャがいた。

 いったいどうして。いや、それよりも一体どうやって蜘蛛を?

「大丈夫?」

「エーシャさん。あなた一体何者です?」

「それは後。まだ、戦えるよね?」

「はい」

 傷ついた蜘蛛と無傷な蜘蛛が入れ替わり、二人に襲いかかる。

 彼女は、蜘蛛の一撃を交わすと、それを掴み……。

 へし折った。

 戦闘中にもかかわらず唖然とするハーク。

「ほら、よそ見しない……。右!」

 振り向くと同時に剣を振り回避する。

 彼女は、襲い掛かる蜘蛛の足を折って行く。

 それをハークが駆逐する。

 だが、数が多すぎる。まだ、百体体以上いる。

「さすがにきついなあ」

「ええ。このままではいずれ力尽きてしまいます」

「……逃げましょう」

 そう言うと彼女は、おもむろにハークを担ぎ上げて走りだす。

「はい!?」

 いきなり担がれて驚くハーク。

 だが、それよりも驚いたのが、彼女の足だ。

 僅か10秒で、蜘蛛が見えなくなった。

 だが彼女は、それでも走り続ける。

「ちょっと、エーシャさん。どこ……っ」

「ここから少し離れたところに街があるからそこまで走りましょう」

「少しってどのぐらいです? それに蜘蛛……っ」

 二度舌を噛んだ。

 その街に行ってどうするのか。蜘蛛が追ってきたらどうするのか。

「後20分ぐらい。大丈夫、大きな街で兵隊もいるから」

 彼女の足で20分と言うことであろうか。

 だとすれば、相当離れた場所にあることになる。

 この人一体何者なんだろう。蜘蛛の足を素手で折るし、凄い早さで走るし……。

 もう何がなんだかさっぱりわからない。

 ハークは一人困惑する。

 やがて、大きな門が見えてきた。

 成る程。これなら安心だ。

 彼女は、そのまま門を走り抜ける。

「ちょっと、エーシャさん! そろそろ降ろしてください!」

「あ。ごめんなさい」

 彼女は足を止めハークを地に降ろす。

 それを見ていた街の人達が、ざわめく。女が男を担いで、凄まじい早さで走っていたのだから当然だ。

 ハークは、恥ずかしさから、エーシャの手を取りそそくさとその場を離れる。

「でも、ここに来てどうするんです?」

「ここには、私の知り合いが住んでいるから、そこを訪ねるの」

 村があんな事になっちゃったからね。と続ける。

 それきり二人は黙り込む。

 落ち着いて周りを見ると、デッペルグでは見られない赤い石をいくつも積み重ねて作られた建物が沢山あった。

 また、行き交う人の服装もデッペルグのものとは違った。何処か上品なものをハークは感じる。

 少し歩いたところで、エーシャが足をとめる。

「ここだよ」

 彼女の指さす先には、他の建物とは比べものにならないぐらい大きな建物があった。

「一体どんな人がすんでいるんです?」

「会えば解るよ」

 そう言って彼女は門を開け、敷地に入る。

 ハークは、慌ててそれに習い、彼女の後を追った……。



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