「これはこれは、エーシャ様。よくぞいらっしゃいました」
屋敷のドアをエーシャが数回叩くと、全身黒で統一され、ぴしっとした服を着た爺が出てきた。
この人が知り合いの人となのか?
こんな大きな屋敷で様付けで呼ばれるエーシャさんは何者なんだろう。
「ロジャーに会いに来たんだけどいいかしら?」
「はい。直ぐにお呼びしてきます。」
どうやら違うらしい。
少しすると、金髪の男が出てきた。
先ほどの爺と同じ様な服を着ている。だが、こちらは白だ。
「エーシャ。ついに僕と結婚する気になったんだね!」
「そうだなあ。しばらくここに置いてくれたら考えてもいいかも」
「それは本当か!? 勿論構わないよ。一生ここに居てくれたらいいんだけどね」
成る程。これだけ美しい未亡人を世の中の男が放っておくわけないよな。
うんうんとエーシャの隣で一人納得する。
「おや? 隣の彼は?」
「私のナイト様よ」
その瞬間ぴくっと眉が動いた。
誤解を生むようなことを言わないで欲しい。
「ふむ。そうか。よく彼女をここまで護衛してくれた。帰っていいぞ」
「ちょっとロジャー?」
「あ、私としたことがこれはいけないね。ほら、金だ」
そう言って。懐から金貨を数枚取り出す。
その瞬間、ロジャーの顎にエーシャの拳が飛ぶ。
「エーシャさん!?」
「大丈夫。手加減はしたよ」
ハークに向かってにっこりと微笑む。
確かに彼女なりに手加減したのかも知れないが、ロジャーは数センチ浮いて床に倒れた。
そして、全く動かない。
「ロジャー様!?」
側で見ていた爺が、ロジャーの傍らにひざまずき、頬をぺしぺしと叩く。
するとすぐさま起きあがり、ぐっと彼女の手を握る。
「本当に久しぶりだね。君もその拳も本当に待ちくたびれていたよ」
「そう? それは良かった。彼は私の大事な人だから丁重に扱ってくれると嬉しいな」
再びロジャーの眉がぴくりと動く。
もしかして、からかっているのだろうか。
一体ロジャーとエーシャさんはどんな関係なんだ。
「騎士君。君は一体彼女の何なんだ!?」
「えーと。昨日川に流されて居たところを彼女に拾われたんです」
昨日。その単語にロジャーはほっとした様な仕草を見せる。
「でも、昨日一緒に寝たし、私彼の全てを見たわよ?」
「なっ……」
驚いた顔で、ロジャーはハークを見つめる。
ハークは、昨日の事を思い出し顔を紅く染めた。
ロジャーは顔を真っ赤にして怒り出す。
「君はいったい何なんだ!」
「騎士の見習いです」
「表に出ろ! 騎士ならば剣で己の正しさを証明しろ!」
正しさも何も、何も間違ったことはしていないのだけれど。
ハークの心の叫びは届かない。
仕方なしに、外へと出向く。
「セバスチャン! 私の剣を!」
そう呼ばれた爺はすぐさま剣を持ってくる。
「さあ、始めようか」
セバスチャンから、細い棒のような剣を受け取るとそれを構える。
渋々と、ハークも剣を構え、距離を取る。
「行くぞ!」
そういって、一気に間合いを詰め、ハークの首を狙って付いてくる。
ハークはそれを左に交わし、剣を横になぐ。
当然の様にロジャーは、後ろにステップしそれを避ける。
睨み合い。
再びロジャーが先に攻める。
ハークはそれを剣で弾き、ロジャーに肩で体当たりを入れる。
よろめいたロジャーに剣を突き立てチェックメイト。
「終わりです」
そう告げた時、ロジャーはサイドステップしてハークの首を突く
「っ……」
だが、ハークはそれを左腕を犠牲にして防いだ。
何をするんだ。そう言いかけた時。
近づいていたエーシャの拳が、ロジャーの胸に決まる。
「何やってるのよ! もう終わっていたでしょ?」
ロジャーは痛みと呼吸困難に苛まれ、ごろごろと地面を転がる。
どうやら、本気で打ったらしい。
仕方なしにどんどんとロジャーの背中を叩いてやる。
そのたびに苦痛にもだえるロジャー。どうやら骨が折れているらしい。
それを魔術で治してやる。続いて自分の腕にも魔術をかける。
ハークの魔術では完全に治すことが出来ないが……。
「どうです? 痛みは取れましたか?」
「え?」
ロジャーは自分の胸を触り良くなっている事に気づく。
その様子に、エーシャも驚きの顔をしていた……。