四章.三十三話
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 ……見たことも無い少女が立っていた。

 その少女は、金髪で琥珀色の目をして、黒いドレスを着ている。

 そして何よりも可愛い。いや、美しい。

「っち。失敗か」

「君はいったい……」

 言い終わる前に、少女はハークに飛びかかる。

 同時に懐から黒いナイフを取り出し、体重を載せてハークに突き刺そうとする。

 ハークは、その少女の腕を取り、そのままベッドに組み敷く。

 ぐいぐいと、ハークの手から逃れようとするがビクともしない。

「っ……。離せ!」

「離さない!!」

 ぴくっと跳ねると彼女はそれきりもがくのを止める。

 そしてじわじわと目を潤ませ、ハークを睨み付ける。

「僕をどうする気さ!」

 「おとなしくしていれば悪いようにはしない」

 安心させるつもりで言ったのだ。

 だが、少女は、ぽつりぽつりと大粒の涙をこぼし始める。

「おい。泣くなよ……。名前は?」

「…あっ…あり……すっ」

「何でこんな事をしたんだ」

 その問いに答えは返ってこない。

 まさか、こんな可愛い少女に命を狙われるとは思わなかった。

 これもやはり文化の違いなのだろうか。

 ハークは改めて、少女をじっと見つめる。

「綺麗だ……」

 がたっ。

 そう呟いたとき、ドアの方から物音が聞こえ振り返る。

 そこには、エーシャとロジャーが居た。

 恐らく、騒ぎを駆けつけてここに来たのだろう。

「丁度い……」

「あ。ごめんなさい! 邪魔するつもりは無かったの」

 丁度いい所に来てくれた。

 そう言おうとして、エーシャにそれを上書きされる。

 邪魔するつもりは無かった? 一体何を言ってるんだ。

「騎士君。君の趣味を悪く言うつもりは無いんだが、それはどうかと」

 ……。

 数秒の沈黙。

 はっ!

「いつからそこに!?」

「君が彼女を押し倒し、離さないと言った辺りだ」

 つまり、ロジャー達の頭の中では……。

「誤解です!」

 そう叫んだ瞬間、少女に蹴り上げられる。

「ぐっ」

 そして、少女は、窓に体当たりし身を投げる。

 大きな音を立てて崩け散る窓。その破片と共に少女は落ちていく。

「なっ。ここは3階だぞ!」

 叫ぶロジャー。

 ハークは、苦痛に苛まれつつも割れた窓の外をのぞく。

 「彼女は無事か!?」

 「いや……」

 窓の下には既に彼女は居なかった。

 直ぐに二人もやってきてそれを確認する。

「ハークこれは一体、どういう事?」

 エーシャに心なしか鋭い目つきで睨まれ問いただされる。

「実は……」

 ハークは、これ以上誤解されないよう気をつけながら、寝込みをあの少女に襲われたことを話した。

 だが、二人の目は明らかな疑心に満ちている。

「エーシャ! この様な男に見切りをつけて私と結婚を!」

「ハーク……」

 誤解は解けていない様だ。

 それからハークは朝まで弁解し続けたという……。


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2006/07/27(水)