……見たことも無い少女が立っていた。
その少女は、金髪で琥珀色の目をして、黒いドレスを着ている。
そして何よりも可愛い。いや、美しい。
「っち。失敗か」
「君はいったい……」
言い終わる前に、少女はハークに飛びかかる。
同時に懐から黒いナイフを取り出し、体重を載せてハークに突き刺そうとする。
ハークは、その少女の腕を取り、そのままベッドに組み敷く。
ぐいぐいと、ハークの手から逃れようとするがビクともしない。
「っ……。離せ!」
「離さない!!」
ぴくっと跳ねると彼女はそれきりもがくのを止める。
そしてじわじわと目を潤ませ、ハークを睨み付ける。
「僕をどうする気さ!」
「おとなしくしていれば悪いようにはしない」
安心させるつもりで言ったのだ。
だが、少女は、ぽつりぽつりと大粒の涙をこぼし始める。
「おい。泣くなよ……。名前は?」
「…あっ…あり……すっ」
「何でこんな事をしたんだ」
その問いに答えは返ってこない。
まさか、こんな可愛い少女に命を狙われるとは思わなかった。
これもやはり文化の違いなのだろうか。
ハークは改めて、少女をじっと見つめる。
「綺麗だ……」
がたっ。
そう呟いたとき、ドアの方から物音が聞こえ振り返る。
そこには、エーシャとロジャーが居た。
恐らく、騒ぎを駆けつけてここに来たのだろう。
「丁度い……」
「あ。ごめんなさい! 邪魔するつもりは無かったの」
丁度いい所に来てくれた。
そう言おうとして、エーシャにそれを上書きされる。
邪魔するつもりは無かった? 一体何を言ってるんだ。
「騎士君。君の趣味を悪く言うつもりは無いんだが、それはどうかと」
……。
数秒の沈黙。
はっ!
「いつからそこに!?」
「君が彼女を押し倒し、離さないと言った辺りだ」
つまり、ロジャー達の頭の中では……。
「誤解です!」
そう叫んだ瞬間、少女に蹴り上げられる。
「ぐっ」
そして、少女は、窓に体当たりし身を投げる。
大きな音を立てて崩け散る窓。その破片と共に少女は落ちていく。
「なっ。ここは3階だぞ!」
叫ぶロジャー。
ハークは、苦痛に苛まれつつも割れた窓の外をのぞく。
「彼女は無事か!?」
「いや……」
窓の下には既に彼女は居なかった。
直ぐに二人もやってきてそれを確認する。
「ハークこれは一体、どういう事?」
エーシャに心なしか鋭い目つきで睨まれ問いただされる。
「実は……」
ハークは、これ以上誤解されないよう気をつけながら、寝込みをあの少女に襲われたことを話した。
だが、二人の目は明らかな疑心に満ちている。
「エーシャ! この様な男に見切りをつけて私と結婚を!」
「ハーク……」
誤解は解けていない様だ。
それからハークは朝まで弁解し続けたという……。
2006/07/27(水)