……顔が取れた。
卒倒するエーシャ。
ハークも驚くが、踏みとどまり、そっとその顔の下を覗く。
すると、そこにはアリスの顔があった。
何でアリスが?
再び驚かされるがこれなら爺に襲われるのにも納得がいく。
アリスを取りあえず縛り上げ、エーシャをばしばしと叩き起こす。
「ん……」
目を覚ましたエーシャはアリスを見て再び驚く。
「執事の正体は、昨日の女の子だったの!?」
「そうみたいだ」
相変わらず、その顔を見るとため息が出る。
しかし、それどころでは無いことに気づき、エーシャにアリスを担がせて食卓にかける。
「ロジャーさん!」
「ああ。君か、遅いからどうしたのかと思ったよ」
「この食事には毒が入っています!」
近くにいた使用人の顔がこわばる。
「騎士君。落ち着いてくれ。何を根拠にそんなことを?」
丁度良く、遅れてエーシャがやってくる。
ロジャーは、エーシャが担いでいる少女を見て驚く。
「彼女は昨日の!?」
「ええ。彼女が食事に毒を盛ったんです!」
「何を根拠にそんなことを!」
使用人が耐えきれず大声で吠える。
ハークはエーシャから、アリスを引き取りそれをロジャーに見せる。
「この服。見覚えありませんか?」
「何を……。まさか!」
「そう、爺……。セバスチャンです!」
その場に居合わせた者は一様に驚きを見せる。
「そして、これが毒です」
そう言って、先ほど爺ことセバスチャンに突きつけた短剣をスープに入れる。
「一体何を?」
いいから黙って見ててください。
それから暫くすると、短剣がうっすらと黒ずむ。
「ね?」
「回りくどいな騎士君。それはつまりどういう事だ?」
「銀が酸化したんです。この短剣は銀で出来ていますから」
毒物には酸性のものが多い。その為、短剣が黒ずんだのだ。
「なんと……」
「取りあえず、この娘どうしましょう?」
アリスは、はっと目を覚まし途端に暴れ出す。
「僕を離せ! この極悪魔術師め!」
顔を真っ赤にして、ぶんぶんとエビのように身体を振るう。
「取りあえず、食事をしている場合じゃ無いですよ?」
「そうだな。この娘を問いたださなくては……。セバスチャン! あの部屋にこの娘を!」
場が静まりかえる。
アリスですらおとなしくなる。いや、あの部屋の意味を知っているからかも知れない。
「ですから、この娘……」
「解っている! いつもの癖が抜けないだけだ!」
ついてこいとハーク達をあの部屋とやらに案内する。
そこは、何処かで見たことのある部屋だった。
使ったら死んじゃうんじゃないか?
そう思わせるほどの拷問道具の数々。
「ロジャーさん。これは一体……?」
「これは、私がエーシャに使って欲しくて集めたものなのだ」
マゾヒスト。
ハークは少し引いた。
だが、それ以上にエーシャは引いていた。
「さて、どれから試してみよう」
恐らく、自分に使用したときの悦びを感じているのだろう。
今のロジャーは至極ご機嫌だった。
対する少女は、かたかたと震え、恐怖に怯えていた……。
2006/07/27(水)