四章.三十五話
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 ……顔が取れた。

 卒倒するエーシャ。

 ハークも驚くが、踏みとどまり、そっとその顔の下を覗く。

 すると、そこにはアリスの顔があった。

 何でアリスが?

 再び驚かされるがこれなら爺に襲われるのにも納得がいく。

 アリスを取りあえず縛り上げ、エーシャをばしばしと叩き起こす。

「ん……」

 目を覚ましたエーシャはアリスを見て再び驚く。

「執事の正体は、昨日の女の子だったの!?」

「そうみたいだ」

 相変わらず、その顔を見るとため息が出る。

 しかし、それどころでは無いことに気づき、エーシャにアリスを担がせて食卓にかける。

「ロジャーさん!」

「ああ。君か、遅いからどうしたのかと思ったよ」

「この食事には毒が入っています!」

 近くにいた使用人の顔がこわばる。

「騎士君。落ち着いてくれ。何を根拠にそんなことを?」

 丁度良く、遅れてエーシャがやってくる。

 ロジャーは、エーシャが担いでいる少女を見て驚く。

「彼女は昨日の!?」

「ええ。彼女が食事に毒を盛ったんです!」

「何を根拠にそんなことを!」

 使用人が耐えきれず大声で吠える。

 ハークはエーシャから、アリスを引き取りそれをロジャーに見せる。

「この服。見覚えありませんか?」

「何を……。まさか!」

「そう、爺……。セバスチャンです!」

 その場に居合わせた者は一様に驚きを見せる。

「そして、これが毒です」

 そう言って、先ほど爺ことセバスチャンに突きつけた短剣をスープに入れる。

「一体何を?」

 いいから黙って見ててください。

 それから暫くすると、短剣がうっすらと黒ずむ。

「ね?」

「回りくどいな騎士君。それはつまりどういう事だ?」

「銀が酸化したんです。この短剣は銀で出来ていますから」

 毒物には酸性のものが多い。その為、短剣が黒ずんだのだ。

「なんと……」

「取りあえず、この娘どうしましょう?」

 アリスは、はっと目を覚まし途端に暴れ出す。

「僕を離せ! この極悪魔術師め!」

 顔を真っ赤にして、ぶんぶんとエビのように身体を振るう。

「取りあえず、食事をしている場合じゃ無いですよ?」

「そうだな。この娘を問いたださなくては……。セバスチャン! あの部屋にこの娘を!」

 場が静まりかえる。

 アリスですらおとなしくなる。いや、あの部屋の意味を知っているからかも知れない。

「ですから、この娘……」

「解っている! いつもの癖が抜けないだけだ!」

 ついてこいとハーク達をあの部屋とやらに案内する。

 そこは、何処かで見たことのある部屋だった。

 使ったら死んじゃうんじゃないか?

 そう思わせるほどの拷問道具の数々。

「ロジャーさん。これは一体……?」

「これは、私がエーシャに使って欲しくて集めたものなのだ」

 マゾヒスト。

 ハークは少し引いた。

 だが、それ以上にエーシャは引いていた。

「さて、どれから試してみよう」

 恐らく、自分に使用したときの悦びを感じているのだろう。

 今のロジャーは至極ご機嫌だった。

 対する少女は、かたかたと震え、恐怖に怯えていた……。


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2006/07/27(水)