五章.三十七話
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 平らに切り出された石の道。その傍らには、楓の木が埋められている。

 そして空は紅く、行き交う人も少なくなり、やがて夜がやって来ることを知らせている。

 ハークはその道をゆっくりと歩き、「街の南にあるパン屋さん」とやらを探していた。

 あれから、エーシャ達と相談して早速調べてくることにしたのだ。

 エーシャもついてくると言ったが、これは俺の問題だ。これ以上巻き込むわけにはいかない。

 さらには、アリスのこともある。彼女をあの屋敷に一人にするのは危険だ。ロジャーが何かするかも知れない。

 かといって、連れて行くわけにも行かないのでエーシャを残したのだ。

 よって今は一人である。

 だが、彼にとって今は貴重な一人の時間だった。

 こっちに来てから色々あったな。そのせいで目的なんて忘れかけてた。

 聞きそびれたせいで未だエーシャの正体は謎だし。

 まだ、アリスのこともよくわからない。

 ふうっとため息をつく。

 みんな心配しているだろうな……。それより何か問題を起こしているかも知れない。

 それを想像して思わずにやける。

「ひっ」

 目の前を歩いていた若い女がそれを見て怯える。

 場を沈黙が支配する。

 何か言おうと口を開いた瞬間、女は酷い形相で逃げ出す。

 一人取り残されたハークは、いたたまれなくなり先を急ぐことにした。



 ――それから、しばらく歩くとそれらしきパン屋を見つける。

 外から見る限りでは、ただのパン屋にしか見えない。

 用心深く辺りを調べるが変わったところはない。

 ネコが一匹店先に昼寝をしているぐらいだ。

 そっと中を覗いてみる。

 しかし、店内には誰もいない。

 どうしようかと悩んだが思い切って中に入ってみることにする。

 ドアに手をかけたところで、ドアに鈴がついているのを見つけ、それが鳴らないようにゆっくりとドアを開く。

 やはりこれといって変わったところはない。

 ふと、並べられたパンの香りが空腹だったことを思い出させる。

 騒ぎがあったせいで何も食べてなかったっけ。そう思ったら無性にお腹がすいてきた。

 だがそこは我慢し、店の奥へと足を踏み入れる。

 すると突然。視界が暗転しハークはその場に平伏した……。



「……ハーク」

 どこからともなく声が聞こえてくる。

「……ハーク!」

 再び聞こえた。だが、今度は腹部に衝撃が走る。慌てて目を覚ます。

 するとそこには、ジェラルがいた。

 どうやら蹴られたらしい。

「何をするんだ」

「何ってお前……。今の状況解っているのか?」

 言われて辺りを見回す。ジェラルの後ろにエリを見つけた。

 そして、石の壁。石の天井。鉄格子。

 どうやら、何者かに襲われて気を失い捉えられたらしい。

「なるほど。助けに来てくれたのか」

「ちがう。お前より先に捕まったんだよ」

「なっ……。世界一(自称)の魔法使いが!?」

 ジェラルとエリが捕ったのには驚く。だが、何より何故、ここに捉えられているのか気になる。

「わざと捕まったんだよ!」

 この町に入って早々に変な連中に囲まれ、魔術師は敵だ。

 そう言っていたのでもしかしたらと思い捕まった。

 それで、いざ捕まってみたら魔法が使えないよう細工のされた部屋に入れられ、出られなくなったらしい。

「馬鹿だな」

「うるせー!」

 少し考えれば、魔術対策ぐらいありそうなことは解るだろうに。

 ふと、妹の姿が見えないのが気になった。

「ところで、ユリアスは一緒じゃないのか?」

「ユリアスちゃんは何処か別のところに連れて行かれちゃった……」

「何だって!?」

 ユリアスが連れて行かれた。

 何の為に?

 出られない牢。何処かへ連れて行かれたユリアス。ハークは不安にその身を震わせた……。


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2006/07/28(金)