――目を覚ますとそこはデッペルグだった。
どうやら夢ではないらしい。
多少の違いはあるものの殆ど元いた時代と変わらない風景。
目立って違うものといえば湖に浮かぶ島だ。
その周囲は厚い壁で覆われていて、その中には城も見ること出来る。
これが古代デッペルグ……。
とにかく人の多さに驚く。
巨大な市場に無数の通行人。
それらはデッペルグの活気の源だと自ずから誇示している。
ハークは、島では無く、湖に近い陸側の橋の近くにいた。
いつまでもここにいてもしょうがないな。
そう思い別の場所に移ろうとしてはっとする。
俺はジースの顔を知らない。
特徴などは古文書が正しければそれとなく解る。
だが、もう一つ。
彼らの家がわからない。
途方に暮れた。
世界の危機を救うため、過去にやって来た。
それなのに何も出来ない。
ハークは言いようのないやるせなさを感じた。
一体これだけ人がいる中どうやって探せばいいんだよ。
心の中でそう叫びつつ、腹が減ったので何処かで腹ごしらえすることにした。
そしてここで、一抹の不安。
未来の硬貨は、過去で使えるのだろうか……。
「すいません。お金見せてもらえませんか?」
近くにいた女に声をかける。
「え!? 恐喝!?」
まずい誤解された。
女は、猫に睨まれたネズミのようにハークを睨め返す。
「いえ。見せてくれるだけで……」
最後まで言い終わる前に逃げ去ってしまった。
仕方なく他の方法を考える事にする。
すると少し向こうにパン屋を見つけた。
丁度いいあそこで何か買えるか試してみよう。
店に近づきドアを開ける。
乾いた鈴の音。
「いらっしゃい!」
それに続いて店主の威勢のいい挨拶が彼を迎えた。
「すいません。これ包んでもらえますか?」
そう言ってサンドイッチを二つ指さした。
「あいよ!」
店主は威勢良くそれに応じてくれた。
どきどきする。
もし使えなかったらどうしよう。
そんな思いを込めて金貨を一枚店主にそっと渡す。
「兄ちゃん……」
やっぱり使えなかったか。
これからどうやって食べて行けばいいのだろう。
「すまねえ。丁度今銀貨が少ないんだ。細かくなっちまうが簡便な」
そう言って数枚の銀貨と大量のどうかをハークに渡す。
これはこれで困るが、飢えて道で腐ることは無くなったのでありがたく受け取る。
「ありがとな!」
店主の挨拶に軽くうなずいて店を出る。
丁度その時、まだ幼い少年とすれ違った。
紅い髪。紅い瞳鋭い目つき。
まさか……。
あれがジースか?
しばらくすると店の中から店主の怒った声が聞こえ……。
「ぎゃあぎゃあ、喚きやがって! うざいんだよ!」
彼に間違いなさそうだ。
しかし、彼は心の中で一つ呟く。
ユリアさん。少し戻し過ぎじゃないですか……?
2006/07/30(日)