最終章.四十八話
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 ――目を覚ますとそこはデッペルグだった。

 どうやら夢ではないらしい。

 多少の違いはあるものの殆ど元いた時代と変わらない風景。

 目立って違うものといえば湖に浮かぶ島だ。

 その周囲は厚い壁で覆われていて、その中には城も見ること出来る。

 これが古代デッペルグ……。

 とにかく人の多さに驚く。

 巨大な市場に無数の通行人。

 それらはデッペルグの活気の源だと自ずから誇示している。

 ハークは、島では無く、湖に近い陸側の橋の近くにいた。

 いつまでもここにいてもしょうがないな。

 そう思い別の場所に移ろうとしてはっとする。

 俺はジースの顔を知らない。

 特徴などは古文書が正しければそれとなく解る。

 だが、もう一つ。

 彼らの家がわからない。

 途方に暮れた。

 世界の危機を救うため、過去にやって来た。

 それなのに何も出来ない。

 ハークは言いようのないやるせなさを感じた。

 一体これだけ人がいる中どうやって探せばいいんだよ。

 心の中でそう叫びつつ、腹が減ったので何処かで腹ごしらえすることにした。

 そしてここで、一抹の不安。

 未来の硬貨は、過去で使えるのだろうか……。

「すいません。お金見せてもらえませんか?」

 近くにいた女に声をかける。

「え!? 恐喝!?」

 まずい誤解された。

 女は、猫に睨まれたネズミのようにハークを睨め返す。

「いえ。見せてくれるだけで……」

 最後まで言い終わる前に逃げ去ってしまった。

 仕方なく他の方法を考える事にする。

 すると少し向こうにパン屋を見つけた。

 丁度いいあそこで何か買えるか試してみよう。

 店に近づきドアを開ける。

 乾いた鈴の音。

「いらっしゃい!」

 それに続いて店主の威勢のいい挨拶が彼を迎えた。

「すいません。これ包んでもらえますか?」

 そう言ってサンドイッチを二つ指さした。

「あいよ!」

 店主は威勢良くそれに応じてくれた。

 どきどきする。

 もし使えなかったらどうしよう。

 そんな思いを込めて金貨を一枚店主にそっと渡す。

「兄ちゃん……」

 やっぱり使えなかったか。

 これからどうやって食べて行けばいいのだろう。

「すまねえ。丁度今銀貨が少ないんだ。細かくなっちまうが簡便な」

 そう言って数枚の銀貨と大量のどうかをハークに渡す。

 これはこれで困るが、飢えて道で腐ることは無くなったのでありがたく受け取る。

「ありがとな!」

 店主の挨拶に軽くうなずいて店を出る。

 丁度その時、まだ幼い少年とすれ違った。

 紅い髪。紅い瞳鋭い目つき。

 まさか……。

 あれがジースか?

 しばらくすると店の中から店主の怒った声が聞こえ……。

「ぎゃあぎゃあ、喚きやがって! うざいんだよ!」

 彼に間違いなさそうだ。

 しかし、彼は心の中で一つ呟く。

 ユリアさん。少し戻し過ぎじゃないですか……?


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2006/07/30(日)