最終章.五十三話
<<前のページへ  l  トップへ  l  次のページへ>>

 ――ハーク達が街に着く頃にはその大半が焼かれていた。

 ヴァルクも直ぐに後からやってきた。

 そして、目の前にジースがいる。

 ジースは姿こそ彼のままだが、白目を剥き歯を食いしばったような顔をしている。

 彼の周りからは、次々と悪魔が現れ、町中に放たれている。

「ジースを殺すのか?」

「もう、それしか手がないんだ」

 そう言ってハークは、悪魔達を身振りで名も知らぬ騎士や僧侶に任せると、剣を持つ手に力をこめ、ジースに向かって剣を振り下ろす。

 確実に残る手応え。

 二発三発と続けざまに切り込む。

 その全てが確実にジースの肉を切り裂く。

 だが、ジースは倒れない。

「なっ……」

 ジースの傷口がぶくぶくと泡を立て、次の瞬間には傷が無くなっている。

 ならば魔術で。

 そう言わんばかりにヴァルクが火球を次々とジースに浴びせかける。

 燃え上がるジース。

 ヴァルクの放った魔術も確実に効果を示すが……。

 やがて炎が消え、黒く肌が焼けただれたジースが現れる。

 そして、その皮膚が地に落ちるとそこには傷一つ無いジースの顔が存在した。

「剣も魔術も確実に効いているが魔術も使わずに再生するとは……」

 だが、それよりも、その場から一切動かずじっとただされるままになっているジースの方が気になってきた。

 何故、避けない?

 何故、反撃しない?

「まさか、ジースは意思を失った訳じゃないのか!?」

「どういうことだ?」

「悪魔こそ彼の周りから出ているもののそれは彼の意思じゃない」

「じゃあ、どうすればいいんだ」

 そう。

 それが問題だ。

 彼に悪意がないところで彼から出現している悪魔達はどうにもならない。

「やはり、ジースを殺すしかない……」

 恐らく彼もそれを望んでいるのだ。

 だから、反撃もせずただそこに立っている。

 考えてみれば、古文書の時と違い、今度はユリウスを恨んでいたわけでは無いだろう。

 恨むとすればむしろ己の力……。

 つまり、自分に対して憎しみを抱いている。

 よく観察してみれば、悪魔達も彼を攻撃している。

「徹底的にやるしかないみたいだな」

 ハークはそう言って何度もジースに剣を振るう。

 ヴァルクもそれに魔術を放ち答える。

 それはまるで人形を相手に訓練をするかのような光景だった。

 血が沸騰し、皮膚がそげ落ち再生する。

 ジースは痛みを感じないのだろうか?

 もし感じているのなら、これは地獄だろう……。

 そう思うと、ハークの剣が鈍った。

「どうしたハーク?」

「これ以上は、ジースが可愛そうだ……」

 そう、これは拷問だ。

 ハークの精神ではこれを行うことによる、剤悪心に耐えることが出来なかった。

「だったらどうするつもりだ?」

 もっともだった。

 だが、だとすれば本当にどうすればいいのだ……。

 そんな彼の問いに答えてくれる者は存在しなかった……。


<<前のページへ  l  トップへ  l  次のページへ>>

2006/07/31(月)