一章.五話
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「で、一体いつになったら出来るんだ?」

「えーと……」

 いつと言われても困る。

 だが、ここで解らないと言えば何で解らないのか聞かれる。

 だったら、適当に答える。

「後三日で終わります」

「この作業に三日も掛かるかなあ。二日で充分じゃない?」

「はあ」

 だったら最初からそう言って欲しい。

 何でわざわざ回りくどくするのか理解に苦しむ。

 そういえば前に出来ませんて言ったら何で出来ないのか聞かれた。

 解らない事があったら周りに聞けと言われて周りに聞いたが誰も解らないと言う。

 おいおい。

 ひとりぼっちじゃ無いですか。

 そんな事言った何日か後。

 「これは君にしか解らないんだから」

 社会とは理不尽なものらしい。

 いくら頑張っても終わらない仕事。

 帰宅はいつも終電だ。

 もう、疲れた。

 出来ればいっそ殺して欲しい。

 そんなことを考えていると、先輩に今日みんなで飲みに行かないかと誘われる。

 ああ。

 ここで、NOと言っていたら。

 俺の人生は変わっていたのかも知れないな。

 みんなでわいわい騒ぐのが好き。

 だけど、騒いだ後が危ない。

 これでもかって強い鬱に見舞われる。

 更に、酒を飲むときは薬を飲むことを止められている。

 そして、その日は朝まで飲んでいた。

 もう限界だ。



 翌週の月曜日。

 俺は会社を休んだ。

 次の日も……。

 その日俺は、いつも通り家を出ると新宿に向かった。

 そう。

 逃げるために。

 新宿に着くと適当に新大阪までの新幹線の切符を買った。

 何処でも良かった。

 遠くに逃げられればそれで良かった。

 手が震えている。

 それは自分でも解るぐらいに。

 新幹線を待つ間だ、時の流れが遅かった。

 売店でマンガを買って読むが、それに集中できない。

 苛々した。

 今朝飲んだばかりだが、更に薬を飲むことにする。

 ようやく新幹線がやってきた。

 俺の席は、喫煙席窓側後ろから8番目。

 席に着き、早速煙草に火をつけた。

 もう、後には戻れないな。

 それが俺の逃亡劇の始まりだった……。


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2006/08/03(木)