[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
――海。
何年ぶりだろうか。
恐らく高校の時に来たのが最後だろう。
だが、3月の海には誰もいない。
砂浜は汚れ、鳩やカラスがたむろしている。
そっと煙草に火をつけた。
そして、砂浜を歩き始める。
入水って本当に死ねるんだろうか。
煙を吐きながら、昔溺れたときの記憶を思い出す。
絶対無理。
苦しまずに死のうなんて都合が良すぎるのか。
あまりのばからしさに誰もいない海で独り声を上げて笑う。
でも、これ以上生きていてもね。
ふと視線を上げると十代ぐらいの女の子が海を眺めて立っていた。
あー。
もしかして同じ事考えているのかな。
その娘と目が合う。
ここから始まる愛があるとか。
だが、彼女は俺を見てそそくさと何処かに姿を消してしまった。
だよな。
そんな都合のいい話あるわけねえ。
一つ大きく煙を吸い込み火を消した。
死のうかなって考えている人間が、携帯灰皿で煙草の火を消すとは何とも滑稽だな。
で、何で死にたいんだっけ。
良く忘れる。
恐らく理由は一つじゃないから。
どうでもいいような小さな事が集まって俺を死に導くのだ。
だが、めんどくさいから死にたいって言うのが一番の有力説だ。
俺の中でね。
で、入水で自殺したらどうなるか。
失敗したらどうなるか。
そんなことを考えていたら死ぬ気が失せた。
他の方法を考えよう。
そう思い駅の方へと歩き出す。
ふと、尻のポケットに入れておいた財布の感触が無いのに気づく。
おいおい。
茅ヶ崎から歩いて帰れと。
その距離を脳内で計算した結果、意地でも財布を捜した方が良いと結論付いた。
早速回れ右して砂浜を歩き出す。
こういうの泣きっ面に蜂って言うんじゃねーの?
溜息をつく。
そして再び煙草に火をつけた。
ったく。
ついてねー。
結局海が赤く染まるまで探したが見つからなかった。
これから歩いて帰れってか。
やっぱりここで死ねって事なのか。
海を見てみる。
ざーざーと寂しげな音を立てている。
失敗したら更に濡れて帰らなきゃならないしな。
そう思い俺は帰ることにした。
家に着いたのは翌日の午前3時の事だった……。
2006/08/04(金)