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一章.六話
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 ――海。

 何年ぶりだろうか。

 恐らく高校の時に来たのが最後だろう。

 だが、3月の海には誰もいない。

 砂浜は汚れ、鳩やカラスがたむろしている。

 そっと煙草に火をつけた。

 そして、砂浜を歩き始める。

 入水って本当に死ねるんだろうか。

 煙を吐きながら、昔溺れたときの記憶を思い出す。

 絶対無理。

 苦しまずに死のうなんて都合が良すぎるのか。

 あまりのばからしさに誰もいない海で独り声を上げて笑う。

 でも、これ以上生きていてもね。

 ふと視線を上げると十代ぐらいの女の子が海を眺めて立っていた。

 あー。

 もしかして同じ事考えているのかな。

 その娘と目が合う。

 ここから始まる愛があるとか。

 だが、彼女は俺を見てそそくさと何処かに姿を消してしまった。

 だよな。

 そんな都合のいい話あるわけねえ。

 一つ大きく煙を吸い込み火を消した。

 死のうかなって考えている人間が、携帯灰皿で煙草の火を消すとは何とも滑稽だな。

 で、何で死にたいんだっけ。

 良く忘れる。

 恐らく理由は一つじゃないから。

 どうでもいいような小さな事が集まって俺を死に導くのだ。

 だが、めんどくさいから死にたいって言うのが一番の有力説だ。

 俺の中でね。

 で、入水で自殺したらどうなるか。

 失敗したらどうなるか。

 そんなことを考えていたら死ぬ気が失せた。

 他の方法を考えよう。

 そう思い駅の方へと歩き出す。

 ふと、尻のポケットに入れておいた財布の感触が無いのに気づく。

 おいおい。

 茅ヶ崎から歩いて帰れと。

 その距離を脳内で計算した結果、意地でも財布を捜した方が良いと結論付いた。

 早速回れ右して砂浜を歩き出す。

 こういうの泣きっ面に蜂って言うんじゃねーの?

 溜息をつく。

 そして再び煙草に火をつけた。

 ったく。

 ついてねー。

 結局海が赤く染まるまで探したが見つからなかった。

 これから歩いて帰れってか。

 やっぱりここで死ねって事なのか。

 海を見てみる。

 ざーざーと寂しげな音を立てている。

 失敗したら更に濡れて帰らなきゃならないしな。

 そう思い俺は帰ることにした。

 家に着いたのは翌日の午前3時の事だった……。


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2006/08/04(金)