二章.十話
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 ――新幹線。

 何年ぶりだろう。

 運良く隣には誰もいない。

 だが、ゆっくり旅気分なんて出来しない。

 何故なら。

 俺は逃げているのだから。

 そう考えると窓から見える風景が素っ気なく感じられる。

 誰かに追われている気がしてならない。

 俺が逃げたことに気づくのは恐らく明日だ。

 やがて新大阪に到着する。

 来てみたはいいが何をするのか考えていなかった。

 取りあえず、駅の施設でたこ焼きを購入する。

 それをバスのターミナルで食べた。

 関東のたこ焼きとさしてたる変わりはない。

 それを適当なゴミ箱に捨てて辺りをぶらつくことにする。

 だが、ひとしきり歩いたところで途方にくれ、ガードレールに腰掛けてこれからどうするか考える。

 この辺で何か仕事を探して永住するか。

 もっと別の場所に行くか……。

 そんなことを考えているとみすぼらしい中年の男が俺に近づいてきた。

「あんたいい男だね。連れ待ちか?」

「いえ、別に」

 このパターンは恐らく煙草が狙いに違いない。

 以前、見知らぬ男に道を歩いていて突然煙草をせがまれたことがある。

 そう考え煙草を一本勧める。

「いやぁ、これも欲しいんだけど、電車賃足りなくてよ。少し恵んでくれないか?」

 なんてずうずうしい男だ。

 めんどくさいから小銭をありったけ男にくれてやる。

 そんなたいした額ではない。

 たかだか数百円だ。

「ありがとよ! あんたやっぱりいい男だ」

 おだてて金をせしめたとこいつに思われるのはシャクだが、めんどくさいのはごめんだ。

 男はそそくさと駅の方へと去っていった。

 こんな所にはいたくない。

 そう思い俺も駅に向かう事にする。

 もっと西に行こう。

 そう考え、岡山までの切符を買う。

 今度はローカルだ。

 釈然としないまま、俺は岡山に向かう電車に乗った。

 西へ。

 行けるところまで行っちまおう。

 始めてきた大阪だったが俺にはあの男の記憶しか残らなかった……。


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2006/08/07(月)