二章.十五話
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 ――痛い。

 頭がじわじわと痛む。

 反撃も反論も許されぬ状況が悔しくて目尻が熱くなるのがわかる。

「ぴーぴー。ぎゃーぎゃー騒ぐんじゃねぇ! おとなしくしてろって何度も言ってるだろ!」

 意識して唇をきゅっと締めた。

 男の目は、座っていて逃げ出したくなる威圧感があった。

 それに負けて目を反らした瞬間再び頭に痛みが走る。

「目を反らすな」

 胸の奥が熱くなるのを感じながら男の目を見据える。

「睨み付けるな!」

 男はヒステリックに叫びながら腹を蹴り上げた。

 痛みに悶絶するも声が出ない。

「お前の面見てるとよ。もうそれだけでむしゃくしゃするんだよ! もう何処かにいっちまってくれねぇか? なあおい」

 男の声は挑発的で更に心のそこからの憎しみを感じ取れる。

「……ごめんなさい」

 沈黙。

 何故その言葉が出たのかわからない。

 悔しい。この言葉しか頭の中に無かったにもかかわらず出たのは謝罪の言葉だった。

 男は何も言わずドアの外まで手を引く。

「二度と俺の前に現れるな!」

 そう言って背中を押し出すように蹴られた。

 よろめき地面に手をつく。

 ゆっくりと男の顔を見上げると見下すように見ている。

 まるで何も見えていないかの様なその瞳。

 だが、寂しさが微かに伺える。

「いつまで見てんだよ! 早く何処かに消えやがれ!」

 今まで何度ももう嫌だ。とか、逃げ出したいと思った。

 だが、今は男が束縛を解いたにもかかわらず逃げ出したいと思えない。

 むしろ逃げるのが嫌だった。

 ただじっと男を見つめる。

 しばらくそうしていると男から憎しみや怒りの感情が消えた。

 そのまま男は無言でけりつけてきた。

 一発。二発。三発……。

 痛い。

 口の中に生暖かいものがこみ上げてくる。

 しかし、抵抗も逃げることも考えず何発蹴り飛ばされたのか。

 その数だけを数えていた。

 身体が震え、段々と目の前が薄れていくのを感じ、それをこらえながらも数えていた……。


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2006/12/30(土)