二章.十六話
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 ――視界に広がる一片の曇りもない青空。

 身体を抜けていくかのような心地よいが頭をさえ渡らせる。

 これだけはやりたくなかった。

 だが、これなら失敗することはないだろう。

 夜にすれば良かったか。

 まあ、時間を掛けなければ問題ない。

 問題ない……。

 足が大袈裟に震えてやがる。

 みっともねえ。

 一歩踏み出せば全部終わるんだ。

 12階建てマンションの屋上。

 靴なんかぬがねえ。

 遺書も残さねえ。

 理由なんか無いけれど敷いて言えば恥ずかしいからだろう。

 考えが変わる前にとっとと飛び降りちまおう。

 覚悟して下を見る。

 真下に人は……。

 いないな。

 と、マンションの角を曲がってきた恐らく中年だと思われる女にみつかる。。

 ちっ。

 どうせ一瞬だ。

 俺はずるい男だ。

 死んだ後の事なんか考えることはしない。

 俺は垂直跳びの要領で飛び出した。

 思ったよりも早い。

 でもやっと死ねるんだ……。

 地面に衝突する寸前、背筋に鳥肌が立つ。

 ぼすっと鈍い音を立てて衝突した。

「うぐっ……」

 手と足に激痛が走る。

 丁度うつぶせの状態で落ちた。

 いや、それよりもすぐに死ねないなんて聞いてねぇ!

 「う゛ぁぁ!」

 あまりの痛みにうめき声を出す。

 嫌な予感が脳裏を巡る。

 失敗したのか?

 12階だぞ!

 だが、それ以上は痛みをこらえるのに精一杯で何も考えられない

 しばらくすると遠くに救急車のサイレンが聞こえてきた。

 だが、その後どうなったのかは覚えていない……。


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2007/01/02(火)