父さん母さん有り難う。
私立の高校。
それだけでもありがたいのに。
マンションで一人暮らしだなんて。
新たな生活のため、彼はローカル線で長野へ向かっていた。
心なしか、殺風景な風景も輝いて見える。
新しい土地で頑張らなきゃな。
彼女欲しいし。
ああ。
頑張らなくては。
どんな部活が女の子にはモテるんだろう。
サッカー。野球。バスケ。
うーん。
運動は苦手だけど練習すれば大丈夫さ。
そう自分に言い聞かせる。
ふと、目の前の女の子と目が合う。
え……。
何でこいつがここにいるんだ。
「やっほ。早月がなかなか気づいてくれないか寂しかったよ」
「……紀美?」
目の前に座るお淑やかそうな女の子。
いわゆる幼なじみ。
幼稚園から中学校まで紀美とは一緒だった。
「あれか? 卒業旅行か?」
「何言ってるの。私も長野の学校に行くんだよ?」
「お前そんな事一言も……」
「だって聞かれなかったから」
ああ。
ひっぱたきたい。
俺はその衝動を大きな溜息をついて押さえる。
「まさか、学校まで同じじゃないだろうな?」
「同じだよ。そして、住むところも」
沈黙。
住むところが一緒。
今彼女はそう言った。
「ああ! 同じマンションって事か」
「同じ部屋」
何で。
頭の中でその言葉がこだまする。
彼女の両親はそれを許可したのだろうか。
そもそも知っているのだろうか。
「早月さ。一人暮らしってお金掛かるの解る?」
「ああ? そんなの当たり前じゃないか」
「だから、私とあなたが一緒に住むの」
成る程。
二人一緒なら家賃も半額。
食費や水道光熱費も抑えられる。
「でもな、紀美……。俺は男でお前は女だろ?」
「あらあ? よからぬ事でも考えているの?」
「そうじゃないけどよう……」
ダメだ。
これ以上何を言っても疲れるだけだ。
遠い目をしながら窓の景色を眺めることにした。
すっと、彼女が俺の隣に座る。
今はもう何も話したく無いんだけどな。
すると、肩に彼女が触れてきた。
そっと彼女の方を向くと寝息を立てていた。
いや、寝るの早いから。
しかも何でわざわざ隣に来て寝るかな。
そんな俺の叫びが、彼女に届くはずもなかった……。
2006/08/02(水)