一章.一話
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 父さん母さん有り難う。

 私立の高校。

 それだけでもありがたいのに。

 マンションで一人暮らしだなんて。

 新たな生活のため、彼はローカル線で長野へ向かっていた。

 心なしか、殺風景な風景も輝いて見える。

 新しい土地で頑張らなきゃな。

 彼女欲しいし。

 ああ。

 頑張らなくては。

 どんな部活が女の子にはモテるんだろう。

 サッカー。野球。バスケ。

 うーん。

 運動は苦手だけど練習すれば大丈夫さ。

 そう自分に言い聞かせる。

 ふと、目の前の女の子と目が合う。

 え……。

 何でこいつがここにいるんだ。

「やっほ。早月がなかなか気づいてくれないか寂しかったよ」

「……紀美?」

 目の前に座るお淑やかそうな女の子。

 いわゆる幼なじみ。

 幼稚園から中学校まで紀美とは一緒だった。

「あれか? 卒業旅行か?」

「何言ってるの。私も長野の学校に行くんだよ?」

「お前そんな事一言も……」

「だって聞かれなかったから」

 ああ。

 ひっぱたきたい。

 俺はその衝動を大きな溜息をついて押さえる。

「まさか、学校まで同じじゃないだろうな?」

「同じだよ。そして、住むところも」

 沈黙。

 住むところが一緒。

 今彼女はそう言った。

「ああ! 同じマンションって事か」

「同じ部屋」

 何で。

 頭の中でその言葉がこだまする。

 彼女の両親はそれを許可したのだろうか。

 そもそも知っているのだろうか。

「早月さ。一人暮らしってお金掛かるの解る?」

「ああ? そんなの当たり前じゃないか」

「だから、私とあなたが一緒に住むの」

 成る程。

 二人一緒なら家賃も半額。

 食費や水道光熱費も抑えられる。

「でもな、紀美……。俺は男でお前は女だろ?」

「あらあ? よからぬ事でも考えているの?」

「そうじゃないけどよう……」

 ダメだ。

 これ以上何を言っても疲れるだけだ。

 遠い目をしながら窓の景色を眺めることにした。

 すっと、彼女が俺の隣に座る。

 今はもう何も話したく無いんだけどな。

 すると、肩に彼女が触れてきた。

 そっと彼女の方を向くと寝息を立てていた。

 いや、寝るの早いから。

 しかも何でわざわざ隣に来て寝るかな。

 そんな俺の叫びが、彼女に届くはずもなかった……。


七川早月瀬本紀美

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2006/08/02(水)