――ここがこれから住む事になるマンションか。
1、2、3……8階建て。
やはりマンションの管理人は若くて美人なんだろうか。
そんな妄想をふくらませつつ鍵をもらいに行く。
だが、管理人は恰幅のいい中年の男だった。
額には毎秒100_gはあろうかという汗をかき、下はトランクス上はランニングシャツ。
更には鼻につく臭いまで放っている。
「あのう……」
「……」
しかも何も喋らない。
「今日からここに住む七川早月です」
「……」
いや、何か喋ってください。
と、いうより職務を全うしてください。
「……友達」
「は?」
ぼそりと呟いてその男は女の子の妙にリアルなフィギュアを取り出した。
反応に困る。
これは友情の証だ。
受け取りたまへってことなのか。
反応に困っていると、男はもう一体別のフィギュアを取り出すとそれを自分の部屋のドアにかざす。
かちっ。
鍵ぃ!?
いやまって、これおかしいから!
男の方を振り向くと既に男はいなくなっていた。
仕方なく部屋に向かう。
あれ、何階だろう。
再び管理人の部屋を見ると札が下がっていた。
律儀に札にもフィギュアがついている。
『8−5』
どうやら最上階らしい。
フィギュアは100歩譲って許そう。
でも、少女文字だけは耐えられません。
何とも不可解な管理人の部屋を後にしてエレベーターに向かう。
「おい。早月! 酷いじゃないの! 電車の中に置き去りにして!」
「気持ちよさそう寝てたから起こしたら悪いと思って……」
紀美はミニスカートにも関わらず、回し蹴りを放ってきた。
しかし、ここで避けたら男じゃない。
神経を研ぎ澄まし、スカートに注目する。
「ピン……ぐへぇ」
腰を落としたため紀美の回し蹴りは側頭部を直撃した。
だが悔いはない。
俺の目には奴のピンクが焼き付いている。
宙に浮き回転して、地面にたたきつけられながらも俺は必死にそれを脳内に深く刻む。
「やだ、ちょっと……。何やってんのよ!」
ブラックアウトする直前、彼女のそんな叫びが聞こえてきた。
何やってんのって、あんたが蹴り飛ばしたんでしょうが。
心の中で突っ込みを入れて俺は完全に気を失った……。
2006/08/03(木)