――8階と7階の全てにソバを配った。
よくもまあ、これだけソバがあったもんだ。
しかし、ソバはまだ余っている。
「あ!」
突然紀美の奴が大声を上げた。
俺は、びっくりしてソバをバラバラと落とす。
「どうしたっていうのさ?」
「あれ」
紀美の指さす先を見るとそこには衝撃的なことが。
部屋から出てきた住人が、通常の鍵を使ってドアを閉めたのだ。
「……」
通常の鍵もあるのかよ!
いや、むしろこのフィギュアを使っているのは俺たちだけ何じゃ……。
「おい紀美。管理人にソバ渡すついでにこの事実を確かめに行こうじゃないか」
「うん。納得いかないもん」
俺は急いでソバをかき集め管理人の部屋に向かう。
エレベーターはまだ1階。
これは待っていられない。
1秒でも早く事実を確かめなくては!
俺たちは階段を全速力で駆け下りた……。
ぜぇぜぇと息を切らしながら奴の部屋のチャイムを鳴らした。
「はぁ〜い」
ん?
女の子の声がしたような。
とことこと駆けよる音に続きドアが開く。
するとそこには小学生ぐらいの女の子がいた。
どっかで見たことのある魔法少女の格好をしているのが気になる。
成る程。
妹がいたのか。と、言うことにしておく。
「何の用ですか?」
「えっと、これについて聞きたいんだけど――」
そう言って、フィギュアを取り出す。
その瞬間女の子の目が輝いた。
「使ってくれてるんですね! これ、僕が作ったんですよー」
「え……?」
僕? いや、それよりもこの娘がこのフィギュアを作った?
細部まで事細かに再現された(俺は見てない)これを作っただと。
「まさか、あの男に無理矢理作らされたの?」
「違うよー。それは僕の趣味だよ。お兄ちゃんが友達が出来ないって悩んでいたから作ってあげたの」
そんなことを言われたら普通の鍵下さいなんて言えないじゃないか。
「あなたとあの人はどういう関係なの?」
紀美が聞いてはいけないことを聞いてしまった。
もしかすると明日の新聞。いや、テレビに幼女監禁と報道されているかも知れない。
「あかの他人だよ?」
ほーらね。
俺は知らないから。むしろ何も見てないから。
「え。じゃあ、なんでここに?」
「あの人は僕のペットだから」
「え?」
「僕のシモベになれって言ったらなってくれたの」
それはそれで問題な発言を耳にした気がする。
このマンションはペット不可だったはずだ!
ああ。管理人だからいいのか。
「いや、おかしいから!」
「え? どうして? お兄ちゃんは凄く喜んでいたよ? 泣いてたし、神がどうのって言ってたし」
きっと需要と供給がマッチしたんだな。
何か疲れたのでソバを渡してとっとと戻ることにする。
ちらっと、ドアの隙間から縛られた管理人が、奥でモゾモゾしているのが見えたがきっと錯覚だ。
「これから宜しくお願いしますね。」
「ご丁寧にどうも。こちらこそ宜しくね」
まだ何か言いたげな紀美の手を無理矢理引きそそくさとエレベータに向かう。
「ね。ねえ、あれって……」
「何のことだ? 白昼夢か?」
そう。俺たちは何も見ていない。
何も見ていないんだ……。
2006/08/04(金)