一章.五話
<<前のページへ  l  トップへ  l  次のページへ>>

 ――夢だった。

 俺ははっとして目を覚ます。

 そうか、あれは夢だったんだな。

 ぐっと立ち上がると腰に激痛が走る。

「っ……」

「大丈夫? あんたって良く気絶するのね」

 気絶?

 ああ。俺は気を失っていたのか。

「何で俺気絶してたんだっけ?」

「覚えてないの?」

 彼女は丁寧に説明してくれた。

 あの後管理人の部屋から戻った俺たちは部屋を巡って口論に発展。

 で、俺が蹴り飛ばされ腰を強打して気を失ったと。

「夢じゃなかったのか! いや、それよりも腰打って気絶するもんなのか? てゆーか蹴るなよ!」

「一つずつにしてよ。それ、あんたの悪い癖よ」

 何で俺が怒られているんですか。

 ていうか、何であなたがそんなに冷静にしていられるのですか。

 ああ。

 確かに言われた通りかも知れない。

「そうじゃないだろ! 部屋ぐらいでキレるなよ!」

「あ、じゃあ私窓のある方ね」

「何でそうなっ……」



 ――夢だった。

 俺ははっとして目を覚ます。

 そうか、あれは夢だったんだな。

 ぐっと立ち上がると腰に激痛が走る。

「っ……」

「大丈夫? あんたって良く気絶するのね」

 デジャヴュ。

 過去に数回こんな出来事があった気がする。

「いいです。もう俺窓のない方で……」

 これ以上蹴られたら腰が保ちません。

 仕方なく、窓のない方に段ボールを運び始める。

 1つ2つ3つ……。

 え?

 そう言えば俺荷物3箱しか無かったな。

 てことは、残り全部あいつのか!?

 なわけない。

 食器やら調理具やらの共用品。

 これは今日使うからな。

 がさごそとそれらをしまい始める。

「あ。早月〜。ご飯どうしよっか?」

「ん〜? 買い物行くのめんどくさい」

「じゃ、早月作ってよ」

 えー。

 冷蔵庫の中空っぽなんですけど。

 そもそも、料理なんてしたことないんですけど。

「ソバぐらいゆでられるでしょ?」

 ああ。

 そう言えばまだ大量に残っていましたね。

 早速取り出したばかりの鍋でお湯を沸かし始める。

「ところでつゆはどするんですか?」

「はい」

 醤油。みりん。粉末状のだし。酒。

 成る程。

 これらを組み合わせて作るわけだな。

 ボールにそれらを適当に入れて混ぜてみる。

 暖かい方がいいか。

 それを違う鍋にいれて火にかける。

 と、ソバをゆでる鍋が沸騰したのでソバを突っ込む。

 ――省略。

 完成!

 いやあ、透き通るようなつゆと歯を弾くようなソバの腰!

 完璧だ!

「……まずい」

「なんですとぉ!?」

 全くこんな完璧なソバにケチつけるとはなんてヤツだ。

「ごちそうさま」

「はやっ」

 なんて早さだ。

 まだ食べ始めてから間もないのに。

「足りないから何かコンビニで買ってくるね」

 だったら最初からそうしてくださいよ……。


七川早月瀬本紀美

<<前のページへ  l  トップへ  l  次のページへ>>

2006/08/04(金)