一章.六話
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 ――入学式。

 俺たちが学校の門に着くと人だかりが出来ていた。

 何かあったのだろうか。

 群がっている生徒達を押しのてその前に立つ。

 するとそこには……。

『今日からこの学校名は七椿から上柳に変わります』

 なんと、学校名が変わっているではないか。

「ちょっと。早月〜。こっちこっち!」

「どうした?」

 校門の中から紀美が手招きをする。

 一体どうしたっていうんだ。

「いらっしゃいませ。ようこそ上柳学園へ!」

 はい?

 校門にずらっとスーツを着た人達が並んでいる。

 何だって言うんだ。

「早月。この人達教師みたいだよ?」

「なんだって?」

 言われて彼らの胸元を見ると、名前、教科、担当がかかれていた。

 どうしたというのだ。

 何故教師が生徒に頭を下げているのだろうか。

 そんなことを考えていると一人の上級生らしき男がやってきた。

「ようこそ新入生諸君。我が学園へ!」

 我が?

 この学校はこの人の物なんだろうか。

「私は3年の上柳英矢。この学園の理事長だ!」

 この人の物らしい。

 知らなかったな。最近は高校生でも理事長を務められるのか。

「嘘だ。本当は親父のだ」

 うわっ。うっざぁ……。

 七光りとかいう奴か。

「諸君。私は思うのだよ。学校もサービス業ではないか? 接客行では無いかと!」

 長そうな演説が始まった。

 しかも、サービス業ってなんだよ。

「この不景気。学校とて例外ではない。ならばより多くの生徒を集めるのなら、それ相応の努力が必要だとは思わないかね!」

 彼はどこからともなく現れた黒子に台とマイクを持ってこさせる。

 その二つのアイテムによって演説は更に白熱する。

 無論白熱しているのは彼だけだが。

「そこで私は考えた! 生徒にいつまでも楽しんでもらえるよう様々なサービスを提供してはどうか!」

 例えばと、彼は一人の教師を指さす。

「彼はこの学校の教師であると共にボクシングのアマチュアチャンピオン! 学校の治安は彼が守る」

 次にと隣にいる教師を指さす。

「彼は、音楽教師だ。解りにくいかも知れないが世界的に有名な歌手だったりする」

 そう言えばテレビで見たことがあるような……。

 それを聞いて女の子達がぎゃーぎゃーと彼の周りに集まった。

 紀美……。

 お前もか……。

「教師だけではないぞ! 構内は全室冷暖房完備! プールは冬でも入れる……」

 それから彼の演説は2時間続いた。

 要約すると生徒に尽くしてくれる学校らしい。

 よくもまあそれだけの金があったっもんだと感心する。

 そもそも先ほど不景気がどうのといっていた様な気がするのだが。

 まあ俺の懐が痛むわけでもないので構わない。

 むしろ尽くしてくれるなら大歓迎だ。

 予定より彼の演説が長引いたため入学式は無くなった。

 これもサービスの一つらしい。

 だが。

 俺は、なにかこれから先良くないことが起きるような気がしてならなかった……。


七川早月瀬本紀美

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2006/08/04(金)