――屋上。
ドアに鍵は掛かっていなかった。
屋上のドアに鍵が掛かっていない学校は珍しい。
だが、次の瞬間その理由がわかった。
網が備えられていたのだ。
屋上はテニスコートとバスケットゴールが設置されていた。
だが、奇妙なことにその奥には公園らしきものが見える。
少しあそこで一人きりになろう。
きっとこれもあの七光りのサービスの一つなんだろうな。
それでも今はありがたかった。
さすがにA〜Z(26)×学年数(3)だけあって屋上も広い広い。
噴水。
ベンチ。
この辺は基本だな。
だけど、屋上に広葉樹が植えられている学校なんてここぐらいだろう。
「はあぁぁぁ」
これからどうしろっていうんだ。
一生ファーストキスは男というメモリーが俺の心に刻まれる。
「はあぁぁぁ」
「なーに景気の悪そうなしけたつらしてはるん?」
「男とキス……。誰!?」
どこからともなく女生徒が現れた。
どうやら、ここでも俺は一人になれなかったらしい。
「なんやぁ。たかだか、男とキスしたぐらいで落ち込んどるんかぁ」
「ぐらいって……」
死活問題ですよ。
腰に手をあてぐっと指さし彼女は言った。
「男とキスするなんて女にとっては日常茶飯事や!」
「俺は男だ!」
「だったら尚更や! 些細な事でうじうじとウザったいんや! 誰かが死んだとか親の会社が倒産したとかそう言う時に落ち込みーや!」
俺何が何で見知らぬ生徒に説教されているんだろう。
と言うよりも人が死んだりとか、親の会社が倒産だなんてオーバーだな。
まさか……。
「誰か亡くなったり、親の会社が倒産したりしたんですか?」
「なわけないやろ。両親親戚皆健在。会社は順調や! 不吉なこと言わんといて!」
なんかもうどうでも良くなってきた。
きっとまともに話したら疲れる人だなこの人。
「ところであなたは一体誰なんです?」
「うち? 堺なぎさや。ちゅーか君は誰?」
「七川早月です」
「聞いたことないなぁ。もしかして一年か?」
「そうですけど」
「じゃあ、うちのが先輩やな。2年やから」
なるほど良く見ると上履きの色が違う。
それにしてもこの人の関西弁は何処か変な気がする。
「先輩は関西の人ですか?」
「いやいやいや。江戸ッ子やでぇ」
なんでわざわざこんな喋り方するんですか。
その答えは直ぐに提示された。
「ふっふっふ。『これでばっちりあなたも関西人! 関西弁マスター』これや!」
「うさんくさっ!」
なんでしょう。
その本は。
いや、そもそもなんでそんなもん買ったんですか。
「ええやろ〜? 5800円もしたけどイイ買い物やで」
尚解らん。
変な人だな……。
「ん〜? しゃあないな。うちはもう使わないし、君に譲ってあげやう」
「いらんわ!」
丁度その時チャイムが鳴った。
「お? それじゃうちはもどるで。ほなな〜」
「また……」
会いたくない。
そんな俺の気持ちも知らず、これでもかって笑顔をみせて彼女は去っていった……。
2006/08/07(月)