一章.九話
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 ――屋上。

 ドアに鍵は掛かっていなかった。

 屋上のドアに鍵が掛かっていない学校は珍しい。

 だが、次の瞬間その理由がわかった。

 網が備えられていたのだ。

 屋上はテニスコートとバスケットゴールが設置されていた。

 だが、奇妙なことにその奥には公園らしきものが見える。

 少しあそこで一人きりになろう。

 きっとこれもあの七光りのサービスの一つなんだろうな。

 それでも今はありがたかった。

 さすがにA〜Z(26)×学年数(3)だけあって屋上も広い広い。

 噴水。

 ベンチ。

 この辺は基本だな。

 だけど、屋上に広葉樹が植えられている学校なんてここぐらいだろう。

「はあぁぁぁ」

 これからどうしろっていうんだ。

 一生ファーストキスは男というメモリーが俺の心に刻まれる。

「はあぁぁぁ」

「なーに景気の悪そうなしけたつらしてはるん?」

「男とキス……。誰!?」

 どこからともなく女生徒が現れた。

 どうやら、ここでも俺は一人になれなかったらしい。

「なんやぁ。たかだか、男とキスしたぐらいで落ち込んどるんかぁ」

「ぐらいって……」

 死活問題ですよ。

 腰に手をあてぐっと指さし彼女は言った。

「男とキスするなんて女にとっては日常茶飯事や!」

「俺は男だ!」

「だったら尚更や! 些細な事でうじうじとウザったいんや! 誰かが死んだとか親の会社が倒産したとかそう言う時に落ち込みーや!」

 俺何が何で見知らぬ生徒に説教されているんだろう。

 と言うよりも人が死んだりとか、親の会社が倒産だなんてオーバーだな。

 まさか……。

「誰か亡くなったり、親の会社が倒産したりしたんですか?」

「なわけないやろ。両親親戚皆健在。会社は順調や! 不吉なこと言わんといて!」

 なんかもうどうでも良くなってきた。

 きっとまともに話したら疲れる人だなこの人。

「ところであなたは一体誰なんです?」

「うち? 堺なぎさや。ちゅーか君は誰?」

「七川早月です」

「聞いたことないなぁ。もしかして一年か?」

「そうですけど」

「じゃあ、うちのが先輩やな。2年やから」

 なるほど良く見ると上履きの色が違う。

 それにしてもこの人の関西弁は何処か変な気がする。

「先輩は関西の人ですか?」

「いやいやいや。江戸ッ子やでぇ」

 なんでわざわざこんな喋り方するんですか。

 その答えは直ぐに提示された。

「ふっふっふ。『これでばっちりあなたも関西人! 関西弁マスター』これや!」

「うさんくさっ!」

 なんでしょう。

 その本は。

 いや、そもそもなんでそんなもん買ったんですか。

「ええやろ〜? 5800円もしたけどイイ買い物やで」

 尚解らん。

 変な人だな……。

「ん〜? しゃあないな。うちはもう使わないし、君に譲ってあげやう」

「いらんわ!」

 丁度その時チャイムが鳴った。

「お? それじゃうちはもどるで。ほなな〜」

「また……」

 会いたくない。

 そんな俺の気持ちも知らず、これでもかって笑顔をみせて彼女は去っていった……。


七川早月瀬本紀美

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2006/08/07(月)