二章.十話
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 ――教室に戻ってもなんて事はなかった。

 みな俺をなじったり馬鹿にするでなしに同情や哀れみの目で迎えてくれた。

 これはこれで嫌なんですが……。

「早月! 何処に行ってたの? 心配したんだよ」

「一人になりたかったんだ」

「大丈夫。私はちゃんと解ってるよ」

 いや。

 解って貰っても誤解して貰ってもダメージは同じだっつの。

 そもそもお前のせいだっつの。

「早月の席はここだよ」

 そう言って自分の席の隣を指さす。

 幼稚園の頃からずっと紀美と隣だった。

 やはり、何か黒い陰謀の香りがする。

「お前裏でな……」

「七川。既にチャイムは鳴っているんだが?」

 おっと。

 教師に注意されおずおずと俺は席に着く。

 と、紀美がそっと耳元でささやいた。

「ファーストキスってどんな味だった?」

「……っ」

 こいつはまだ引っ張るって言うのか。

 一発頭をはたいてやる。

「なんや。まだへこたれてたんかい。しょーもない男やなあ」

「え?」

 何であなたがここにいるんですか。

 さっき2年って言ってたじゃないですか。

「しかも女の子に八つ当たりってひっどいわあ」

「それは……」

「だからそこ! うるさい。 堺もまた留年したいのか?」

 留年したのね。

 彼女は顔を真っ赤にして俯く。

「変なもの学習してるから……」

「うっさい!」

「堺……。お前留年もきわどかったんだからもう少し静かにしてくれ」

「ぐっ」

 堺は目を瞑り、歯をぎりぎりとならす。

「早月。この子と知り合いなの?」

「さっき屋上で会ったんだ」

「堺なぎさやよろしゅうな」

 さすが人に言うだけあって立ち直りが恐ろしく早い。

 それでも不味いと思ったらしく今度は小声でやりとりする。

 でも、ホームルームの話を聞かなくていいものなのか。

「私は瀬本紀美よろしくね」

「ここで自己紹介しなくてもどうせ後でみんなやるんだろ?」

「あ。早月と堺さんのいない間に終わったよ」

 昨日夜中まで考えたのに終わっていたんですか。

 ああ。でもきっと誰よりも強く俺の事はみんなに刻まれているだろうさ。

「そうえば、お前ら制服どうしたんだ?」

「え? みんな新しいの貰って着替えたけど?」

 てゆーか俺も制服が新しくなっているんですが……。

 まさか!?

「なあ。何で俺まで新しい制服になってるんだ?」

「先生が嬉しそうに着替えさせてくれてたよ」

 言い切って紀美は顔を紅くする。

 それはつまり、クラスメイトの前で俺の着替えが行われたと。

「なんでやねん!」

「うるさいぞー。七川」

 ふと奴の顔を見るとにやにやしている。

 やっぱりそっちの人ですか。

 もう嫌だ。

 こんな生活……。


七川早月瀬本紀美堺なぎさ

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2006/08/07(月)