二章.十一話
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 ――それから数日が経った。

 入学生気分はそろそろ無くなり通常授業もスタートした。

 そんなある日の放課後。

 俺は独り教室に残り、部活案内のパンフレットを見ながら次の部活見学をどこにするか考えている。

 サッカー・野球・バスケ。

 この三つはもう回った。

 でも、入る気にはならなかった。

 何せ練習量が半端では無い。

 運動系の部活は全て日本一を目指しているらしい。

 その殆どの部活にプロのコーチや元オリンピック選手なんかを集めている。

 一体どれだけこの学校をアピールする気なんだか。

 最近知ったことだが、七光りは今と同じ規模の校舎を更に何棟か増やす気らしい。

 ここ長野だよな。

 確かに空港はあるし、オリンピックも行われたことがある。

 だが、数千人もこの学校に集まるとは到底思えない。

 おっと、今はそんなことはどうでもいいんだ。

 もう、運動系は諦めて文化系の部活にしようかな。

 どんな部活がモテるんだろう。

「ん? まだ残ってたんか。独りで何してるん?」

「堺先輩こそこんな遅くまで何をしていたんですか?」

「部活の宣伝。ウチの部活人気無いねんから……」

 そう言って堺は肩を落とす。

「一体何の部活なんですか?」

「帰宅部や」

 何を言っているんだろうこの人は。

 たまに堺先輩の言っていることが解らなくなってくる。

 もしかして、ここ突っ込むところですか。

 それともただの馬鹿なんだろうか。

「おい七川。いま頭んなかでウチの事馬鹿にしたやろ?」

「え。何で解ったんですか?」

 乾いた音が誰もいない教室に気持ちよく轟いた。

「どっからそんな物取り出したんですか?」

 彼女の右手にはハリセンが握られている。

「どこだってええやねんか。全く……。帰宅部はれっきとした部活やで」

「でもパンフレットには載っていませんけど」

「そらそうや。誰でも入れる分けではないんや。選ばれた人間だけがそこに招かれる」

 留年する先輩が入れるぐらいだから誰でも入れてどうしようも無い活動をしているのでは。

 そもそもパンフレットに載っていないと言うことは正式な部活ですらない気がする。

「七川。ものごっつう疑ごうとるやろ?」

「選ばれた人間だけが入れるのに部活の宣伝するって矛盾していません?」

「スカウトや。優秀そうな人材を捜しとるんや。もちろんスカウトされたかて誰でも入れるわけじゃない。入部試験をクリアしてからや」

 何故だ。

 聞けば聞くほどうさんくさくなってくる。

「もうええわ。ほなウチについてき」

「え? 何をするんですか?」

「男は黙ってついてくればいいんや」

 俺忙しいんですけど。

 モテる部活探さないと。

「って。痛いです痛いです。手ねじれてます」

 かなり強引に俺の手を引いて教室を出る。

「あー。もう。男ならがまんし!」

 性差別だ。

 セクハラだ。

 腕がねじられたまま俺は廊下を引きずられていった……。


七川早月堺なぎさ

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2006/08/08(火)