二章.十二話
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 ――校長室。

「なんで!?」

「ここが部室や」

 いや、校長室って書いてあるんですけど。

 先輩待ってください。

 仮にここが部室であったとしても色々と心の準備が……。

「うーす! 一匹スカウトしてきたぜ!」

 一匹ってそんな虫みたいな数え方しないでください。

 そもそもスカウトされた覚えはないんです。

 てゆーか、ここ校長室なんですけど。

「あら。七川君じゃない。初めまして。私は早吹矢那よ」

「初めまして。って何で俺の名前知ってるんですか?」

 俺はこの人を知らない。

 校長の椅子に座る栗毛色の髪をした彼女。

 落ち着いた仕草とその声。

 堺先輩とは正反対な感じがする。

「あなた有名だもの。入学早々……」

「それ以上言わないでください」

 ようやく俺の中で封印された記憶が甦る所だった。

 しかし、上級生の間にまで広がっているとはびっくりだ。

「えっと。早吹さんは何年生なんですか?」

「ん? 三年よ」

「七川。つまりは三年留年しているって事やで」

 何故に!?

 堺先輩より遙かに頭が良さそうなのに……。

「能ある鷹は爪を隠す言う訳や。この部活に入ったら全ての能力を表に出したらあかんねんや」

「教師は全て部活から手が回っているからこれに協力してくれているわ」

 ますます意味が解らない。

 それはつまり堺先輩も馬鹿じゃ無いって事なんだろうか。

「でも何でそれを俺なんかに話すんです?」

「それはあなたが堺にスカウトされてここに来たからよ」

「心配せんでもええで。入部試験に落ちたら消すから」

「はあ!?」

 殺されるの?

 帰宅部って一体どんな組織だ。

「堺……。それじゃあ、七川君を殺すみたいじゃない」

「ああ、すまん。消すのは記憶だけや」

 それでも十分びっくりだし、十分恐怖なんですけど。

 ほななと堺先輩は紙とペンを俺に差し出す。

「待ってください俺部活に入るなんて一言も……」

「あらあら? それは困ったなぁ。今記憶を消す機械の調子が悪くて修理中なのよね」

「ほな、物理的に消せばええねんや」

 そう言ってどこからか金属バットを取り出した。

「やります。是非やらせてください」

 釈然としないものを感じつつも俺は試験に目を通す。

 『問1.あなたは神を信じますか?』

 む?

 『問2.もしあなたが次に生まれ変われるとしたら何なりたいですか?』

 ……。

 いったい何なんだこれは。

 おや?

 ふと字が霞んで見えたかと思うと次の瞬間問題が変わった。

 『ここに署名してください』

 驚いて先輩達の顔を見ると、先輩達はにやりと微笑んだ。

「もうええで。合格や!」

 もう訳が解らない。

 何なんだろうこれは。

 俺はこれから自分にどんな厄災が訪れるのか想像するのは容易では無かった……。


七川早月堺なぎさ

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2006/08/09(水)