二章.十八話
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 ――翌日。

「七川! 今日も張り切って部活行くぞ!」

 目を輝かせ喜々とした笑顔で堺先輩が俺の手を引く。

 はいはい。

 今日は何処の部室でしょう?

 ていうか……。

「それより、昨日の契約書っぽい紙の内容が知りたいんですけど」

「ふぅ。相変わらず、細かい事ばっかり気にするんやな」

 細かいのかな。

 いや、細かくないだろ!

「ふっふっふ。今日は家庭科室や」

「料理でもするんですか?」

「おおお! 鋭いぞ七川! 偉いぞ七川! 良くわかったな」

 バカにするなと心で舌打ちしながら家庭科室に入り込む。

「おお来たか七川」

「部長!?」

 部長が真っ先にいるのにも驚きですけど。

「何やっているんです?」

「ああ? ケーキ作ってるんだよ」

「あ、部長そう言う家庭的な趣味があったんです……」

「お前の為だ!」

「はあ」

 俺のため?

 何かのお祝い?

「七川君の夢を叶えるためにケーキ作りの練習しているのよ」

「夢って幼稚園の頃のですか!?」

「ああ。お前にはケーキ屋をやって貰う」

 え。

「あ、さっき七川が気にしてた契約書はケーキ屋を開くための資金の借用書や」

 え?

「えーと。店舗の内装料とか当面の運転資金に千二百万ほど借り入れておいたわ」

 なっ。

「内装の工事の方は順調だよ。もう数日で終わる予定」

 幼稚園の頃の夢ですよ?

 なのに何でこんなバラエティ番組みたいな企画しちゃってるんですか。

 しかも、いつの間にか英矢先輩と早吹先輩までいるし。

「えと、全部冗談ですよね?」

「全部本当だ。安心しろ俺たちが一流のケーキ屋にお前を仕立て上げてやる」

 何を根拠に信じろというのか。

 しかも、店を開となったら……。

「学校はどうするんです?」

「愚問やな。休むに決まってるやないか」

 はい?

 学校を休む?

「休むってどのぐらいです?」

「借金返済できるまで」

 ああ。

 そうでしたね。

 皆さん留年していましたね。

「いやいやいや。俺、留年したくないんですけど!」

「あら? 借金返済できなくてもいいの?」

「それは、先輩達が……」

「七川。この日本は書類が全てだ。諦めろ」

 いや、部長諦めろって……。

「あ、そうだ。言い忘れてたが店舗販売で得た収益はお前の小遣いにもなるんだぞ?」

「えーと。もし失敗して赤字になった場合は?」

「さあ。それはその時考えましょ」

 その時って、絶対全部俺に被せる気でしょ!?

「七川! 現実を見るんや! とっととケーキの勉強せんと取り返しつかなくなるで!」

「もう、どうにでもしてください……」

 かくして俺は借金千二百万を背負いケーキ屋になるための修行をすることになった……。


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2007/01/15(月)