三章.二十話
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 ――パリ。

 生まれて初めて飛行機に乗った。

 生まれて初めて外国に来た。

 辺りを見渡せばフランス人ぽい人が沢山いる。

 ぽいっていうか、本物なのだが……。

「七原。俺たちはフランス旅行を楽しんでくるから、何処かでケーキの修行適当にやってきちゃって」

「ちょっと、部長。投げやり過ぎません?」

「細かい事気にしちゃダメだよ七原」

「いや、英矢先輩。俺一人にしないで下さいよ」

「頑張ってね」

 早吹先輩のその言葉を合図にみんな全力で何処かに走り去ってしまった。

 ひどい。

 一人前に仕立て上げてやるって言ったじゃないですか。

 そもそも何でパリにいるのか。

 それは昨日のことだ……。

 

「どうですか部長」

「悪くは無い。その辺のケーキ屋と変わらない位のレベルになったな」

 とうとう街のケーキ屋さんレベルにまで達したようだ。

 僅か三日でここまで腕を上げた自分がどこか輝いて見える。

「だが、これでは世界に通用しないな」

「世界!?」

 こんな短期間で世界レベルにまでなれたらそこら中ケーキ屋さんだらけですよ。

 そもそも、店開く前から世界ですか。

「さて。どうしたら手っ取り早く世界に通用するケーキを作れるようになるか……」

「部長。ここは思い切って本場の味を研究しにいってはどうでしょうか?」

 早吹先輩。それはもしかして。

「そうだな。ここは思い切ってフランスに飛ぼう」

「それ。ただ、フランスに行ってみたいだけ何じゃないんですか?」

「部長がそう言うと思っていたので部員分のパスポートは取得済みです」

「なら、話は早い。早速明日からフランスへ行こう」

「そう言うと思って飛行機のチケットも手配済みやで」

「絶対この企画企てた時点で全て整ってたでしょ? その口実としてこのケーキ屋でしょ? 俺の借金で全部まかなうんでしょ?」

「と、言うことで今日は解散だ。明日までに色々用意するように」

 

 あんまりだ。

 俺なんか悪いことしましたか? 神様……。

 ダメだ。ネガティブになっちゃいけない。

 いっそ本来の目標であるケーキ屋修行を行おうでは無いか!

 さっそく世界レベルのケーキ屋とやらを教えてもらうために通行人を捕まえた。

「あのう。この辺りで一番美味しいケーキ屋さんを教えてもらえませんか?」

「?」

 ああ。

 そうでしたね。

 ここはフランスでしたね。

 言葉通事ねえよ。

 どん。

「ちょっと。こんなところで突っ立ってらじゃまでしょ? もうちょっと隅っこで途方に暮れなさいよ!」

「あ、ごめんなさい。そうします」

「全く。最近学校に来ないと思ったらいきなりフランスって何考えているの?」

「いや、俺もそう思うんですけど、成り行きっていう奴で……紀美!?」

 何で紀美がフランスに?

「へへ。来ちゃった」

「来ちゃったって……。どうやって?」

「バカね。飛行機に乗って来たんだよ」

「いや、そうじゃなくて何処にそんな金があったんだよ」

「まあまあ。細かいこと気にしちゃダメだよ」

 気にするから。

 細かくないから。

「さあ。私が来たからもう寂しく途方に暮れることも無いでしょ? ケーキ屋修行張り切って行ってみよう」

 そうですね。正直心強いです。

「って、なんで俺がケーキ屋修行しにきたって知ってるのさ!?」

 あ、いないし。

 紀美がいたその場所で、マダムっぽい人が俺に話しかけられたと思って顔をしかめている。

「さき〜。早く早く!」

 早くって言われてもそんな急ぐ事ないんじゃないか。

 そう思いつつも俺は紀美の背中を追った……。


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2007/04/06(金)